■夕日の向こうに
52
2度目のリスボン2日目。思いがけない人から、思いがけない内容の電話。
『久実、明後日あいてる?たしか、いまリスボンだよね?』
慌てたような声の雅恵。
『2時間くらい、同行して欲しいの。申し訳ないんだけど。また、そっちに行ってから連絡するから。』
内容もわからないまま、電話は切れる。
雅恵がポルトガルへ来るのは、最初から知ってる。仕事も忙しいし、あまりにも遠いので、結婚式に来てねーとは言えなかったんだけど、雅恵は『無理やりにでも、有給使って行くよ。』と言っていたから。
でも、直前に来ると思ってた。明後日って・・・ちょっと早目じゃん。しかも同行って・・・、何だろ?
まあ、私は暇なんで、時間は取れるんだけどね。リカルドは相変わらず忙しそうにしてるけど。
今回の大会で、リカルドはよりいっそう、有名になった。雑誌にもたくさん取り上げられているし、しかも、母国ポルトガル。知名度は他国より圧倒的に高い。ホテルに帰ってくるのも夜遅くになってからだし。まあ、国民性か、朝は比較的ゆっくりしてるけど。
雅恵と約束の日。朝食前に雅恵から連絡が入った。
『久実、ごめんね、朝から。何してた?』
「まだホテルにいるよ。今から朝ごはん食べに行こうと思って。雅恵は?」
『私も朝食まだ。思ったより寝過ごしちゃったよ。今ね、リスボン市内のホテル。』
やっぱり。こっちに来てたんだ、昨日のうちに。
『どこ泊まってるの?そっち行くからさ。今日のことも話しとかないといけないし。』
雅恵が言うので、ホテルの名前と場所を告げる。雅恵は電話口で地図を見ているようで、
『すぐ近くだよ、ここから。いつ頃行こうか?午前中には会っておきたいんだけど。』
雅恵が言うので、どうせならホテルのレストランで、朝食をみんなで・・・、ということに。リカルドも朝はゆっくりしてられるし。
30分ほどして、雅恵と山下さんがやってきた。
「ごめんねー。私はおきてたんだけど、1人寝てた人がいてさー。」
そういう雅恵の横で、まだちょっと眠そうな顔で、バツが悪そうに笑う山下さん。
「思ったより時差ぼけが・・・。しばらく日本で生活してたからなぁ。」
たしかに、日本からはめっちゃ離れてるし、飛行機での移動時間も半端じゃない。
“それで、同行ってなに?”
席について注文を終え、本題に入る。
“実は、通訳を頼まれて欲しいの。実はこっちに来たのは仕事がらみなんだけど、当初、先方の人は英語の出来る人って話だったのに、急に昨日になって、ポルトガル語しか話せない人が商談に来ることがわかって。通訳手配する時間もなくてねー。久実だったら、話せるし、会社のこともよく知ってるし、と思って。ごめんね、辞めた会社の手伝いさせて。”
そんな大事なとこで、通訳するんですか?私。
大丈夫かなあ。通用するのか?私のポルトガル語。
“大丈夫だって、久実の語学力は、僕が保障するよ。”
リカルドもそう言ってくれたので、とりあえず、引き受けることに。
“ありがとう。このお礼は海外部の部長にたっぷりさせるから。”
雅恵はほっとした表情で、笑い名から言う。そして、
“まあ、おかげで、会社の経費で堂々とこっちに着たんだけどね。”
そう付け加えた。
しばらく4人で話していて、そしてリカルドは用があるので一足先に出かけていく。
「見たよ、W杯。夜更かしして。おしかったねー、後一歩だったのに。」
リカルドがいなくなってから、山下さんはW杯の話をする。気を使ってたのかな?
「うん、みんなすごく頑張っていたのにね。」
「私も見てたよ。・・・ていうか、久実が目立ってた。」
雅恵はニヤリと笑って言う。・・・なんですと?!
「あ、それ俺も見た。ポルトガルサポーターのなかに、1人日本人がいて。わざわざ解説が説明してたもん。リカルドの婚約者で、浦和の庄田選手のお姉さんですって。」
山下さんも笑いながら言う。
日本人なんて、他にもいたのに。・・・一般の観客席に。
しばらくW杯の話や、日本の話で盛り上がってたけど、そろそろ時間だということで、2人と一緒にホテルを出る。
2人はちゃんとスーツを着てるんだけど、私1人私服ですが、大丈夫なんだろうか?着替えるっていっても、スーツなんか持ってきてないけど。
「ジーンズにアロハシャツだったら、着替えてもらうけど、久実の私服ならそのままでいいよ。基本おとなし目だし、きっちりしてるからさ。」
雅恵がそう言ってくれたので、とりあえず一安心。
さすがにアロハシャツは持ってないけど、ジーンズくらいは持ってるよ。今日は避けたけど。
今日は薄いピンクのワンピースに白いショート丈ジャケット。一応、持ってきてる服で、それなりの選んでよかった。あまり数も持ってきてなかったし。買うといっても、サイズが合わないしね。
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