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■夕日の向こうに
5

 そのとき。

「ダイジョウブ?」

・・・日本語?発音変だけど。

と思って、顔をあげたら、ニコニコとした青年。日本人ではない・・・なあ。

 私が顔をあげると、彼はもう一度『ダイジョウブ?』とたずねてきた。

「日本語・・・わかるの?」

「チョット。バカヤロ、キコエタ。」

 彼は笑いながら言う。

 ・・・聞かれてたのか・・・。

 私は急に恥ずかしくなって、顔があかくなるのがわかる。

〔英語は?話せる?〕

 2日間、日本語を聞いてなかったせいか、私は急にこの青年に親しみを覚えて、こんどは英語で聞いてみる。

〔日本語よりは大丈夫〕

 彼はそう言ってにっこり笑った。

〔そう、よかった。バカヤロって言ったのはね・・・〕

 私は彼が急いでないというのをいいことに、信吾のことからなにから、すべて彼に話した。

 ・・・というより愚痴ったかな?

 そういえば、このことについて、誰にも泣き言言わなかったかも。雅恵にも、かるくごまかしたし、両親にも、「別れたから」だけしか言わなかったし・・・。
 結婚式のキャンセルなんかで、結構迷惑はかけたとは思うけど・・・。

 彼は、私の愚痴をずっと聞いてくれて、そして、

「ダイジョウブ。アシタ、キョウヨリ、モットイイヒ、ダヨ。」

 そうにっこり笑って、日本語で言った。

 ・・・明日は今日より、もっといい日・・・かな?

 さっきまで、明日は無いー・・・って思ってた。でも、彼に愚痴って、そしてその言葉を聞いて、ちょっと元気がでたような気がした。

 今日よりも明日か。そうだよね、前向かないと、何も始まらない。

〔ごめんね、私ばかり愚痴って。もう、真っ暗になっちゃったね。〕

 気づけば、辺りは暗くなってる。

〔どこ泊ってるの?道わからないんだったら、送るよ。僕もホテルとらないといけないし。〕

〔空港から近くの、ラディソン サス・・・だったかな?え?地元の人じゃないの?〕

〔僕の両親はマデイラに住んでいるんだ。僕は今、イギリスにいて、今日リスボンに休暇で帰ってきたとこ。マデイラには明日帰るから、今日はこっちで一泊。〕

 そうなんだ。・・・って、マデイラってどこ?

〔いいとこだよ。のんびりしてて、景色きれいで。〕

 彼は、故郷を思い出してか、優しい笑顔で言った。


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