■夕日の向こうに
42
「リカルドは、大丈夫だった?心配してない?」
春奈さんは、会ったとたんにそう言った。
「よくわかってますねぇ。相変わらずですよ。私の単独行動には、いい顔しません。」
私がちょっと膨れてそう言うと、春奈さんは笑いながら、
「やっぱり。リカルドは久実ちゃんのことに関したら、すごく心配性ね。普段は、無鉄砲なのに。」
そうなんだ。私は、私といるときのリカルドばっかりみるから(当たり前だけど)、いやに心配性の、大人っぽいところしか知らない。だから、出会ってもうすぐ一年だけど、いまだに年下っていう実感がわかない。見た目も、リカルドの方が年上に見えるしね。
普段のリカルドって、どんなんだろう?無鉄砲って?
ポルトガルチームでも、マンUでも、リカルドは年少者の部類に入る。高木さんだって、リカルドより7つ上だし。そんな高木さんたちから見れば、普段のリカルドは、まだまだ子供なのかも。・・・20歳すぎて、子供ってのもおかしいけど。
「正しく言えば、やんちゃだった・・・かな?」
春奈さんが続ける。
「一年前、久実ちゃんと出会う前のリカルドは、試合の時だって、すぐカッとなってカードもらうことも結構あったけど、最近落ちついてきたよね。私生活だって・・・、あ、これは言っちゃいけなかったのかも。」
春奈さんが慌てて言葉を止める。
きっと、リカルドの女性関係のことだろう。それくらいは私も知ってる。実家にある山のような久志の雑誌読んだし。
「いいですよ、だって、知り合う前のことでしょう?ここ一年の間に、いろんな人とお付き合いしてた、だったらちょっと悲しいけど。」
私が笑って言うと、春奈さんはほっとしたように、
「さすが年上、とりみださない。」
と笑って言う。
だって、それを言ったら、私だって結婚一歩手前だったんだもん。いろいろあったと言えば、私も同じ。しかも、リカルドはそれをすべて承知してる。・・・っていうか、私が一番最初にしゃべっちゃったんだけどね。
それでも、リカルドは私を選んでくれた。何でだろ・・・?って思うことは、思う。今までリカルドが噂になった人っていうのは、たいてい有名人。モデルさんだとか、女優さんだとか、みんなとても綺麗な人ばかり。
それが、ここにきて、一般人の私。不思議には思うけど、もちろん悪い気はしない。
「んー、ちょっと立場は違うけど、私も同じようなものよ。一般人だしね。」
春奈さんは言うけど、春奈さんところは、高校の時からの付き合いだもん。どちらかというと、久志と香織ちゃんところと同じだ。
「それでも、淳司がJリーグに入って、日本代表になって、どんどん有名になっていった時には不安だったのよ。違う世界の人みたいになって。高校の時は同じチームにいたわけだから、特にね。」
そっか。そうだよね。逆にそっちのほうが、不安は大きいかも。私は最初から、有名人と一般人だもん。
そんな話をしているうちに、スタジアムの周辺へ。
スタジアムの周りには、青いユニフォームを着ている日本人の姿も見える。久々に見る、日本人の集団だ。しかも、ドイツまで応援に来る、筋金入りのサポーター。試合前だけど、すでにテンションは上がってるみたいで、大盛り上がりだ。
代表戦の観戦は、初めてではない。信吾と付き合っている時、日本での試合は見に行ってたし。2002年のW杯も、一緒に見に行ったし。でも、それは国内のことで、海外まで見に行く、ってほどでもなかった。信吾もそこまで時間取れるわけではなかったしねえ。
だから、海外まで駆けつけるサポーターって、すごいなあって思う。
それに、私一人だったら、すぐ近くだとしても、見に行かないような気もする。あまり行動的でもないし、テレビで見たらいいかって、なっちゃうだろう。
でも、正直、熱狂的なサポーターって、ちょっとうらやましい。楽しそうだなーっとも思うし。選手と1つになって、ゲームに参加してるような気がして。
「ほら、サポーターは12人目の選手って言うでしょ?応援が、試合の勝敗を左右することもあるし。だから、私たちは私たちで、頑張って応援しましょ。」
春奈さんはにっこり笑って言う。
そうだよね。高木さんとリカルドが試合するところも見たいし、日本には頑張ってもらいたい。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!