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■夕日の向こうに
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 4月半ば、いよいよイギリスに向かって出発する。次に日本に帰ってくるのは、いつになるかはわからない。

 リカルドが帰国してからの3ヶ月。長いようで、短かった。
 イギリス行きの準備もあったし、ドイツ語教室にも通った。まあ、3ヶ月で話せるようになったのは、ほんの簡単な会話程度。リカルドについてドイツに行ったとき、英語だけでは不安だし。全く話せないより、ちょっとでも話せたらいいかな?ていうくらいのものだけど。

 いつもリカルドと一緒にいられるわけではないし、1人で動くことのほうが圧倒的に多いはずだからね。

 リカルドが私のことを心配しないでいいように。リカルドがサッカーだけに集中できるように。


「愛の力は、すごいねえ。」

 出発の日。成田でからかうように山下さんが言う。

「これで四ヶ国語話せるようになったんだもんね。」

 雅恵が言うけど、だからドイツ語なんてほんのちょっとだってば。

 空港には山下さんと雅恵、両親と香織ちゃんが見送りに来てくれた。

「久志くんから伝言です。『気をつけて。リカルドによろしく。それと1人でも多くの選手のサインよろしく。』だそうですよ。」

 香織ちゃんが笑いながら言う。久志は浦和に入団して、今は猛練習中。早く試合に出たいから、少しでも多く練習したいらしい。

 私も、早くピッチで活躍する久志の姿が見たい。今まで夢を実現してきた久志のこと、そんなに遠くはないだろう。

「リカルド君によろしくね。何かあったら、すぐに電話してきなさい。」

 母さんが言う。父さんはあいかわらずあまり喋らないが、優しい目で見送ってくれた。
 


 いよいよ、新しい生活のため、イギリスに向けて出発する。





 ヨーロッパのサッカーシーズンが終わり、各国代表選手が続々とドイツに集まってくる。

 私も、リカルドと共にドイツ入りした。

 普段はそれぞれの所属チームでプレイする選手達。リカルドもポルトガル代表選手として、急ピッチで練習してる。

 私といえば、これといってすることはない。たいてい練習を観に行ったり、1人で近くを観光したり。

 リカルドと一緒にいるようになっての恩恵か、いろんな国、いろんな街にいくようになった。なので、いろいろな都市の写真を撮ろうと思って。

 昔から、いろんな場所の風景写真とか、見るのが好きだった。自分では行けない場所でも、行ったような気分にさせてくれる写真。そんな写真が自分でも撮れるかな?って思って。これが、私の新しいやりたいこと。

 リカルド以外の知っている人が、ほとんど周りにいない生活が始まっている。そんな毎日でリカルドだけを待つのでは、私も、リカルドも息がつまる日が来るかもしれない。

 何か目的があれば、毎日が充実してくるのは確か。

 まあ、もともとぼんやりしてる私だから、何もしなくても、普通に時間は過ぎていくだろうけどね。

 苦手なパソコンも、少しは詳しくなった。インターネットって凄いよね。日本とヨーロッパでも、すぐに繋げちゃうんだもん。
 父さんがパソコン触れる人だから、ちょっとした近況報告を写真つきでネット上にアップしたら、毎日欠かさず見てくれているみたい。まあ、山下さんや雅恵、香織ちゃんは何かしらの反応を返してくれているけど。


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