■夕日の向こうに
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だから、私はリスボンにいた。
しばらく仕事しなくても、やっていけるだけのお金は十分ある。
ふらっと、海外でもいってこよう、英語はなせるし、困ることは多分ないはず・・・。
って、ポルトガル、英語圏じゃないけど。
信吾がサッカー好きで。ポルトガルのなんとか、っていう有名な選手のファンで。
「新婚旅行はポルトガルがいいな。」
って予約までしていたくらい。
まあ、結婚ボツになったから、新婚旅行はキャンセルしたんだけど、とりあえず、むかつくから来てみた。
私がポルトガルにいる理由はそれだけだった。
一人で気ままな海外旅行・・・のはずなんだけど、結局、どこに行っても、何を見ても、考えてしまうのは信吾のこと。
優しくて、仕事ができて、男前で。まあ、確かになかなかあんな人はいない。
会社でも女子社員の中で人気ナンバー1だったし。だから、私も会社にいるときは気が抜けない。
『斎藤さんの彼女の、庄田さん』ていうのは有名だったし。
だから、私も仕事ができて、冷静で、完璧な庄田さん。をずっと続けてた。
だから。
完璧な女は、何かあったときも取り乱さない。
会社で、私は宮原園華に婚約者を取られた、といううわさが(本当のことなんだけど)流れても気にもしなかった(ふりをした)。
まあ、そのあとすぐに辞めちゃったんで、多分退社の理由はみんなの知るところなんだろうけどね。
でも、これで、完璧な庄田さん、はしなくていい。
肩の力は抜ける。
でも、少々肩こっても、完璧な庄田さんを演じても・・・信吾のそばにいたかった。
「斎藤信吾の、ばかやろー!!!」
あたしは、夕日が沈みかけて、すこし薄暗くなった川に向かって叫んだ。
日本語だ、誰もわかるまい。
そして、その場に座り込んだ。
さて、今からどうしよう・・・。
実は、ポルトガル語の本と、地図を、今日どこかで無くしてきて、私は独り異国で迷子状態。英語の話せる人探せば、言葉はなんとかなるかもしれないけど、方向感覚もあまりよろしくない。
実際、私ができることといえば、社長のおもりと、英語だけだからねえ・・・。
一人で旅行も初めてだし、海外だって、プライベートでくるのは初めて。
「どうせいいか。べつに明日に希望があるわけでもないし・・・。」
私は一人つぶやいて、ひざを抱えて頭を伏せる。
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