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■夕日の向こうに
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 決勝戦が始まった。

 対する鹿児島高校も全国的に有名な高校。何度も優勝してるし、プロになった卒業生も何人もいる。

 ここ数年、浦和高校は全国大会に出れるか、出れないか、というレベルだった(そうだ)。同じ県内に他にも強豪校があるというのもひとつの理由だが、やっぱり素質のある人材にめぐまれなかったというのも大きな理由らしい。

 12年前、高木さんは浦和高校サッカー部のキャプテンだった。ドリブルやパスなどの技術的にも優れていたが、それよりも周りを見て動くサッカーができる、みんなを上手く動かすことができる、ということに関して、ずば抜けてすごかったらしい。

 今でも高木さんは、日本代表のキャプテンで、みんなを上手く動かし、また、周りを見て動いている。

 まあ、私はそこまでわかってサッカー見てるわけじゃない。すべて香織ちゃんの受け売りなんだけどね。

「確かに、監督がわざわざイングランドまで電話してきただけのことはあるわね。」

 試合を観ている春奈さんが言う。

「そうだなあ。監督が言うとおり、いい選手だよ庄田久志。」

 高木さんもそう言ってくれる。みんなが久志を褒めてくれるのは私も嬉しいんだけど、でも、ほんとうにそこまで言われるほどの人材なの?

「まだ高校生でしょ?今からまだどんどん上手くなるんだから。あと2,3年したら凄い選手になるよ、きっと。」

 高木さんはにっこり笑ってそう言う。

 冷静に試合を見ている高木さんと春奈さんとは対照的に、私の隣のリカルドは、試合に熱中していて、

“右右、パス出して、そこだ、今だ!ああーっ!!”

なんてポルトガル語で叫んでいる。私たちの前にいる浦和の応援してる人達は、リカルドが何かを叫ぶたびにチラチラ後ろを振り返ってるけど。

 前半終了間際。それまで互角の試合を続けてきた両校だったが、ゴールの近くで相手選手のファールがあり、浦和にフリーキックのチャンス。

〔PKじゃなかったのが、残念だよなあ。〕

 リカルドは隣でつぶやく。

ボールを蹴るのはどうやら久志らしい。ふと香織ちゃんを見ると両手を合わせて、祈るようにして久志を見つめている。

−ピーッ!−

 ホイッスルの後・・・。

「おおおおおお−!」

 場内に沸き起こる歓声。

「やったぁ!!」

“やった!!”

 すぐ傍で同時に聞こえる日本語とポルトガル語。

 久志の蹴ったボールは壁を作っている鹿児島の選手の頭上を超え、ゴールポスト手前で下方向に少し曲がって、左側のゴールネットを揺らした。

“久実、久志が1点入れたよ!”

隣のリカルドが私に向かってそう言ってから、ようやく私は、

「やったぁ!」

 そう言ってリカルドに飛びついた。

 後半にもドリブルで相手ディフェンスをかわし、ペナルティエリアまで走りこんだ久志が、ゴール前へ走りこんできた味方の選手にパスを出し、そのままその選手がゴールを決め、2点目。(リカルドをはじめ、香織ちゃんや高木夫妻の実況&解説より。)

 そのまま2対0で、浦和高校が優勝。

 試合終了の、長いホイッスルが鳴ると、久志をはじめ浦和の選手たちは飛び上がって喜び、みんなが監督の周りに駆け寄っていく。

 浦和の応援席からも大歓声。

“やったー!!”

 隣のリカルドもそう叫んで私に抱きつく。
 


 ほどなくして表彰式が始まり、賞状とカップが選手に手渡される。カップを受け取った久志は、表彰式が終わるとすぐに他の選手と共に応援席の前まで走ってきた。

 大きな拍手と歓声で出迎えられた選手たちは観客席に向かって大きく手を振っていたが、その中で久志は、右手で優勝カップを高々と上げ、そして私たちがいるほうを見て、

「香織―!!」

と叫んだ。

 私の隣にいる香織ちゃんは涙を流しながら、一生懸命久志に拍手を送っている。

 久志と同じ夢を見て、久志を応援し続けてきた香織ちゃん。自分のことのように嬉しいんだろうなあ。久志もそれをわかっているから、一番に香織ちゃんの所へ走ってきたのだろう。


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あきゅろす。
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