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■夕日の向こうに
34

 その日の夜、リカルドから電話が入った。

『こっちは朝。今日、試合があるんだ。それが終わったら、ちょっとだけど一時休暇がもらえることになったから、日本に行こうと思うんだ。』

 え?リカルド、日本にくるの?大丈夫なの?

『平気だよ。クミの両親にも会いたいし、ヒサシにも会えたらいいな。』

 リカルドは楽しそうに言う。私は昼間、香織ちゃんから聞いた話を思い出して、

「そうそう。久志ね、卒業したら、浦和レッズに入るんだって。私、教えてもらってなかったのよ。ひどいでしょ。」

 口ではそう言うけど、笑って言う。リカルドも驚いて、

『久志もプロかぁ。浦和なら、親善試合やることもあるから、そのうち久志とも対戦できるかも。』

電話の向こうのリカルドの声が弾んでいる。リカルドも楽しみにしてくれてるようだけど、それには久志はまだまだ努力しないといけないなあ。

「試合、頑張ってね。テレビ見ながら、こっちで応援してるね。」

 私がリカルドに言うと、

『ありがとう。クミが応援してくれてると思うと、やる気がでる。愛してるよ。』

 リカルドはそう言って、電話を切る。

 携帯電話を置いて、左手の薬指を見た。リカルドからもらったピンクダイヤの指輪。蛍光灯の灯りで、キラキラ光ってる。その指輪に軽くキスをして、

「頑張ってね、リカルド。」

 私はそっとつぶやいた。




 リカルドが日本に来たのは5日のお昼。久志の準々決勝とかぶってたのだけど、勝てると信じてリカルドを迎えに私は空港へ。
 ・・・久志の試合とリカルドを天秤にかけたら、久志には悪いけど、リカルドを選ばさせてもらう。ほら、リカルドは日本に慣れてないし・・・ね。



 年末年始を海外で過ごした人たちなどのUターンラッシュで、成田空港はすごい混雑。この人ごみの中で、ちゃんとリカルドを探せるのか?

 ロンドン発の、リカルドが乗っているはずの便も、満席だったらしく、到着した飛行機から大勢の人が降りてくる。

 リカルドは・・・いた!スーツケースを引く背の高いリカルドの姿は、人ごみの中でもすぐわかる。

〔リカルド−!〕

 私は見落とされないよう、背伸びして大きく手を振りながらリカルドの名前を呼ぶ。それに気づいたリカルドは私のそばまで来て、

〔クミ、会いたかったよ。〕

そう言って私を抱きしめる。私がイギリスを出て、10日も経っていないでしょう?

〔ほら今回、クミ、イギリスに長い間いただろ?一緒にいるのが当たり前ってなっていたからなあ。〕

 リカルドは笑いながら言う。リカルドが私を必要としてくれていることは、とても嬉しい。

 その時。

「相変わらずだなあ。」

 という声がリカルドの後ろから聞こえる。見ると高木さんと春奈さんが笑いながらこっちを見ている。私は知ってる人に見られてたということで、急に恥ずかしくなった。

〔高校のサッカー部の監督が、今年の選手権は優勝するから見に来ないか?って連絡してきてね。ちょうど休暇も取れたことだし。〕

 高木さんは言う。

〔そうだったんだ。てっきり普通に里帰りかと思ってたよ。〕

 リカルドが言うと、

〔里帰りみたいなものよ。もともと私1人で行く予定だったし。〕

春奈さんが笑って言う。

 え?同じ高校だったの?

〔私、サッカー部のマネージャーだったの。3年の時の選手権で優勝して以来、きびしい時代が続いてたんだけど、今年はやるぞって監督が電話で熱く語ってたのよ。いい選手がいるんだって。〕

 へぇー、高木さんを育てた監督が言ういい選手だから、高校生ながら、すごいんだろうなあ。

 その時、私たちの話を聞いてたリカルドは、

〔高校の、サッカーね。久志は?出てるの?〕

と、ふいに私に聞いてくる。

〔そうそう、出てるんだって。私、選手権自体把握してなくて。久志に怒られたもん。『海外サッカーばっかり見ずに、弟に少しは興味持て』って。〕

 私が言うと、みんなが大笑いする。

〔クミらしいよ。〕

 リカルドはそう言って、また笑う。

 ひどい。でも・・・反論できないかも。
 そんな話をしているうちに空港出口に到着し、高木さん夫婦と別れ、私とリカルドは私の家に向かった。


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