□葛原心霊相談所 4-8 合宿4日目、最終日。 今日は出発まで自由行動ということで、朝食後、またもやみんなは海へと走っていく。 木嶋の体に触れて海を見ても、もうあの無数の手は見えない。 「葛原、泳がないのか?」 今日は水着の上にジャージを羽織っている木嶋が私に向かって言う。 「いいの、めんどくさいから。」 「ていうか、実は泳げないんじゃないか?」 !なんでそれを! 図星を刺されて、一瞬フリーズした私を、木嶋は見逃さなかった。 「意外だなあ、葛原に苦手なものがあったなんて。」 いやに嬉しそうに言う木嶋が、むかつく。 私は木嶋を無視して、海を見る。 海水浴場になっている浜には、うちの部員のほかに、地元の人たちの姿も見える。 みんな思い思いに楽しんでいる姿をみると、うらやましくも思う。 泳げない以前に、水が苦手だ。学校プールで精いっぱいなのに、海なんてもってのほかだ。 背の届く、浅いところでも嫌だ。 背が届かないとこまで泳いでるんだろうなぁ、という子供が何人もいる。 小さい子供で、沖まで泳ぐやつの気がしれん。 そんな中、様子のおかしい子供がいる。泳いでる・・・ではなく、溺れてる? 「木嶋、木嶋!あれ見て!あの子供。様子がおかしい!」 私が指差したほうをみた木嶋が、瞬時に険しい顔になる。 「まずい!」 そう叫んだかと思うと、羽織っていたジャージを脱ぎ捨て、一目散に海へと走っていく。そして迷わず海へと飛び込んだ。 ほどなくして、木嶋は溺れていた子供を抱えて戻ってきた。発見が早かったため、さほど水も飲んでおらず、子供の両親もすぐに見つかり、大事には至らなかった。 「葛原が、見つけてくれなかったら、大変なことになっていたよ。ありがとうな。」 そう笑って言う木嶋は、私が知っている木嶋ではない。 ジャージを脱いだ木嶋の体は、意外にたくましく、海に入って濡れた髪が、太陽の光を浴びてキラキラ光っている。 「葛原?どうした?」 木嶋が私の顔を覗き込んで言う。 不覚にも、木嶋に見とれてしまった。 不覚にも、木嶋をかっこいいと思ってしまった。 相手は、あの木嶋なのに。 葛原恵子、一生の不覚かも。 葛原心霊相談所 5に続く [*前へ] [戻る] |