□葛原心霊相談所 2-5 あたしが木嶋の手を握ったままボーっとしてると、いままで意識の無かった木嶋が戻ってきた。 「…?あれ、俺気分悪いからってここに来て…いつの間に葛原が来たんだ?さくらの姿も見えないし。」 木嶋は今の状況が把握できてないらしい。 「楽になったでしょ?木嶋に取り付いてたのは、今さくらが上に連れて行ってるから、もう戻ってくることはないはずよ。」 あたしが言うと木嶋は驚いたように、 「そうか!葛原が除霊してくれたんだな?」 でも笑顔で言う。 「でも…さくらは大丈夫かな?一緒に上に行っちゃったけど…。戻ってくるよねぇ。」 あたしは独り言のように呟いた。そのとき、 「ただいまぁ。」 という元気な声と共に、さくらが姿をあらわした。 「おかえり〜〜!ご苦労様。」 あたしは木嶋の手を握ったまま、さくらに向かって言う。まあ、そうしないとあたしにはさくらの声どころか、姿も見えないんだが。 あたしとさくら、そして木嶋がほっと一息ついて和んでいるところに、 「先生、こっちですかー?」 その声と共に、テニス部の部員の子が部室に入ってきた。そしてあたし達を見ると同時に動きが止まる。 え?なに?さくらが見えてるの? 「…先生…お邪魔でしたか…?」 その子は言う。え? あっ、この手だ! あたしと木嶋はやっと気づいた。そしてあわてて繋いでいた手を離す。 そうか。部室で、二人っきりで、手を繋いでるところに出くわしたら、誰でも動きがとまるわな。しかも、先生と生徒だし…。 「い、いや、洲本、違うんだ。」 木嶋は慌てて部室から去ろうとする部員を呼び止める。 「実はな…えっと…この子は俺のクラスの子で…。部活動をやりたいんだけど、この時期から入って大丈夫かって相談されてたんだ。じつはこう見えてもこいつ、気が弱くて、いじめられたりしないかって気にしてて、な?」 木嶋は適当ないい訳をして、しかもあたしにふってくる。誰が部活なんかやるかって。しかも、あたしが気が弱いって?いい加減なことばかりいってやがる。 でも…そうでもしなければ、この場を収めることは出来ないか。まさか、今ここで木嶋に取り憑いてた霊の除霊してましたー、なんて言うわけにはいかないわな。 「そうなんです…、あたし今までどの部にも入ってなくて…入る勇気がないあたしを、木嶋先生が元気付けてくれてたんです。」 なんて、しおらしい生徒を演じてみる。 「だろ?だから洲本、新しい部員として、めんどう見てくれるか?」。 「いいですけど…。じゃあ、えーっと…。」 テニス部の洲本君はまだちょっと不思議そうな顔をして、あたしに向かって言う。 「葛原、葛原圭子だ。」 木嶋が洲本君にあたしの名前を言う。 「じゃあ、葛原さん。みんなに紹介するから、コートまで来てくれるかな?」 …って、完璧に入部することになっちゃってるじゃない!いまさら、部活なんて面倒なのに…。 あたしは木嶋を上目遣いで睨む。 どんどん、あたしの周りは騒がしくなっていく。 あーあ、こんなはずじゃなかったのに…。 ◆葛原心霊相談所3へ続く◆ [*前へ] [戻る] |