[携帯モード] [URL送信]

小説
遠い遠いゆめのかなた(ダークシリアス皆本二重人格設定、オリジナルキャラ有(兵部×皆本)R18(相棒へのプレゼントです
ぼけっと男は夜空を見上げていた。
「……光一?」
「火、くれないか?」
「相変わらずヘビースモーカーね」
 男の前に突然出現した女は笑う。サングラスをかけた男に笑いかけた。
 光一と呼ばれた男はタバコをくわたまま、苦笑いを一つ。
「あいつらの前じゃ吸えなくてさ」
「まあそうよね」
 純粋に信じてる、皆本という男を、ほんとにかわいいもんだ。
 でもそんな男はどこにもいないのに、と男はため息をつく。
 女は長い黒髪を夜風に揺らして、貴方も罪な人よね、とため息をついた。
「利用するには丁度いい人材だろ?」
「……ウィザードクラスのヒュプノ能力者ならではの手ってわけ?」
「まあそうだな」
 女がライターも使わずに火を男のタバコにつける。
 男はマンションの屋上で紫煙をくゆらす。
 ふうと深いため息を女は一つ。
「ほんとあんたって」
「……というかお前きがつかなかったのか? ゴキブリが一匹やってきたぜ」
「え?」
 結界能力者にしては間抜けだよなあ。と男はクスクスと楽しげにそしてどこか愉快げにタバコをくわえたまま笑った。
「きみは?」
「皆本光一」
にやりと笑う男。
無邪気に笑うその顔は子供のようだった。
「でもあんたのしる皆本じゃない」
侵入者に彼はたばこをさしだし、吸うか?と問いかけた。
「……兵部京介、パンドラの長、そしてバベルの敵、八十年前にバベルの先駆けともいえる……」
 女は敵愾心むき出しの顔で現れた侵入者に冷たい眼差しを向ける。
「データは入ってるんだろ、明(メイ)?」
 明と呼ばれた女は深いため息をついて、そして皆本の言葉に続いた。
「能力者としてはあのチルドレンを上回るとも思われる力の持ち主、とやらね、光一」
 明は学ラン姿の少年に指をつきつけた。
 彼女は黒いスーツに身を包んだ、どこかキャリアウーマンのような格好をしている。
「……パンドラの首領となれば、能力じゃ強いのはわかってるけど、どうやって私の結界をのりこえてきたのよ!」
「いや普通に入れたんだが……」
 くくくくくく、と愉しげに肩を震わせ、皆本は笑う。
 そしてきょとん、としている顔の兵部と明を見た。
「俺が結界をといておいたから、兵部にだけね」
 あはははははは、愉快だ。と彼はぱんぱんと手を叩く。
 タバコを器用にくわえたまま。
「……光一!」
「皆本クン?」
「……あんたさ、皆本が薫を殺す、あんな未来見たくないってのが本音だろ? ブラックファントムに利用されていた能力者を見て思った。あんた、ノーマルとエスパーの共存を望んでいるんじゃね?」
 ブラックファントムをお前は殺さなかった。と皆本は続ける。
「あいつ、能力者のために妹を殺されたんだってな」
 そのために能力者を利用する裏の世界のボスになった。
 だからこそ、能力者を憎んでいたよな。と彼は深いため息をつく。
「あいつに利用された能力者ってのが俺の昔の知り合いでな。……目覚めたくなかったのに。だから俺は」
「……彼は元々ノーマルでしたが、ある事故をきっかけに能力が目覚めたの。でも……」
 兵部は彼らを怪訝な眼差しで見ている。普段の皆本とは違う。
 その話し方も気配も笑い方も。
 この男は何者だ? と兵部は思う。
「……キャリーと同じだよ。能力が目覚めたかわりに違う人格が生まれた。それが『俺』だよ」
 オリジナルはあんたが知る皆本光一だけど。とタバコを吸いつつ彼は語る。
「俺は俺、そして……あいつは力をもたず、おれだけが能力がもっているってわけ」
 普通に生きていたかった。と彼は語る。
 でもブラックファントムを見て目覚めてしまった。
 なればこそ、あんたに協力してほしいんだよ。と兵部に彼は手を出しだした。
「……明にも相談してみたんだが、俺を封じ込めるには、やはり同じヒュプノを使える人間のほうがいいらしい。もうブラックファントムに利用されてた……メアリーは能力を失ってしまったし、頼みがある。俺を眠らせてくれ、永遠に」
 どうしてそう結論を急ぐの?
 貴方は貴方よ。どうしてそう消えたがるの。と明が絶叫する。
 悲しいほどさびしい瞳をするな、と兵部はそんな皆本を見て思う。
「……気がつかなかったね君がいるということを」
「……眠っていたからな。あんたたちのことはずっと見てた。俺はもういやなんだ。この世界で生きていくのは、だから俺を眠らせてくれ。あんたもそのほうが都合がいいだろ? 俺みたいなのよりあいつのほうが相手にはしやすいし」
 明が叫ぶ。どうしてそういつも消えたがるの? 貴方の能力が発現したのも、貴方の人格が生まれたのも貴方のせいじゃないのに、と長い髪を夜風に揺らせながら、明が泣き出すと、悪かった。と皆本は一言ささやく。
「……あんたなら俺を眠らせることができるだろ?」
「どうして君が生まれたんだ?」
「……昔のことだがな、俺と明とメアリーが合った……事故、いや事件ともいうべきか」
 昔俺が海外に留学する準備に、コメリコに行ったときに、であったテロのせいだ。と皆本は語りだす。
 宗教ってのは怖いよな。と彼は泣きだしそうな顔で笑う。
「……宗教にからむテロがあったと」
「ビンゴ! クリスマスの悲劇ってやつだよ。12月25日に空港でテロがあっただろ? 俺とメアリーと明はそれに巻き込まれて能力が目覚めたくちなんだ」
 あれは地獄だった。とため息を皆本はつく。
 本当の地獄だったと。
「……俺は宗教ってやつがあれから大嫌いでね」
「私もよ」
「……でもESP検査に君はひっかからず、バベルにはいった。その事故のことはバベルの記録には」
「……さすがにそれから能力の発現がわかったからまずいしな、俺が消したんだ記録そのものを、それから俺は割りと能力をだだもれで使っていたしなあ」
「……よくばれなかったもんだ」
「まあ。色々手はうったけど」
 明は貴方は彼を消す気? と尋ねる。
「君は、結界と火を使う複合能力者みたいだね」
「……よくわかるわね」
「まあこれだけ生きてれば」
 目覚めたくなんてなかったのに。と明は悲しげに笑う。
「八年前のあの事故以来、俺はどうやったら俺自身を消せるのか考えてきたんだ。だからメアリーに頼んで、俺は眠ることにしたんだよ」
 それなのにメアリーはあんな組織につかまっていて、あんなことをさせられていて……と皆本は自嘲した。
「……メアリーは元気か?」
「ああパンドラでは澪と仲良くなって一緒に遊んだりしてるよ」
「まだほんの子供だしな、十二歳だった。事故のときはまだ四歳だったし」
 俺は世界で一番神様って奴が大嫌いだよ。と皆本は悲しげに笑う。兵部は彼が差し出した手をぎゅっと握り締めた。
「君も辛い思いを……」
「ノーマルは俺たちを恐れ、忌み嫌う。俺たちだってこんな能力もちたくてもったわけじゃないのに、恐れる。嫌う……異質なものを排除しようとする」
 皆本みたいな人間は少ないのさ。と彼は暗い闇の瞳で兵部を見た。
「あくまで百万人に一人ほどの人間だ。あいつは……いるだけで奇跡ともいえる。だから……」
「光一、いえ……一(はじめ)はオリジナルの意識を自分が干渉するのを恐れてるの。私たちはノーマルを憎んでる……一も、私も……だから」
 ノーマルさえいなくなれば、私達幸せになれる。なんて思ったこともあって、昔色々やってたのよ。と明は語る。
「……俺はノーマルを憎んでる。どうしようもなく、だからこそ俺は眠りたいんだ」
「あいつらさえいなくなれば……いいって思ったこともあったのよ」
 兵部はにやりと笑う。そして一の手をとっていった。
「キミは一というのかい?」
「便宜上つけた名前だが、二人とも同じじゃ呼びにくいだろ名前?」
「……どうだろう、パンドラにこないか?」
「はあああああああ?」
 どうやったらそういう流れになるんだよ。とぽろっと一は加えていたタバコを落とす。
「……大丈夫だ、パンドラは仲間を歓迎するよ」
「あんた、話聞いてたのか? あのな、俺は」
「……ボクはどっちかっていうとキミのほうが好きかもしれないなあ、自分に正直で見てると面白い」
 なんかどうしようもない人間に俺は相談してしまっているのか? と一は思う。
 にこにこと機嫌よく彼は笑いながら、大丈夫、レベル7クラスのヒュプノなんてめったにいないし、皆キミを歓迎するよ。とぶんぶんと手を振る。
「明……どうしよう」
「……えっとあの、オタク……正気?」
 ああそうだね、明といったね。キミもよかったらこないかい? と愉しげに兵部は笑って誘う。
 二人はじと目でそんな兵部を見ている。
「……タイム、そろそろあいつが目覚める。明、頼む結界をといてくれ、そろそろ部屋に戻らないと」
「了解」
「……どれくらいキミは目覚めていられるの?」
「現在は、一日二時間くらいだな。とりあえず話はまた今度だ、戻る」
 じゃあまた会えるね。と兵部はほんとうに楽しそうに笑う。そろそろ手離せよ。と一はいやそうに兵部から手を離した。
「……またね、一」
「……とりあえず考えておいてくれ、あんたの力だったら俺を封じられるだろ? 後あいつらには俺のこと黙っておいてくれないか?」
「ああ、こんな楽しいこと他の人には教えられないよ」
 どうしてもこうしても、まあ兵部は兵部で。
 こんなのに相談した自分が馬鹿だったかもしれない。とつくづく一は思った。
 またね、と兵部は手を振っている。
 深いため息を一つ、それをみ見て明はついていた。


「皆本、飯!」
「わかったわかった」
 ぼけっと明は、朝からの子供達とそして皆本の光景を見つめている。
 暗い目で世界のすべてを憎む、『彼』とは全く違う。
「……時々想像してみるの、貴方がいない世界を……か」
 メアリーが大好きだったのも、私が愛したのも『貴方』じゃなくて、寂しい笑い方をする寂しがりやの貴方だけだったのに、と彼女はため息をつく。
 唄を歌いながら、彼女はマンションの向かいのビルの一室から四人を見ていた。
「なぜ気がつかないの? 貴方はまだ彼の中にいるのに」
「……キミはあっちの『一』がすきなのかい?」
「……ずっと一緒だったから」
 現れた人影にちらりと彼女は視線を向けた。
 パンドラには行かないわ、私はノーマルとも馴れ合わないからバベルにもいかない、と明はきつい目で兵部をにらみつける。
「……なぜそれほどノーマルを憎む?」
「……あのテロを起こしたのはノーマルだったし、能力が目覚めた私達を利用しようとしたのもノーマルだった。私たち三人だけだった……お互いを必要としたのは」
「メアリーは……」
「記憶ないんでしょ? 昔の……ならそのほうがいい」
 どうしてもあの時のことは悪夢だったし、あの子は小さいからやり直しがきくしね、と彼女は深いため息をつきながら、兵部に言う。
「……キミは?」
「私は駄目、あの時はもう十七だったし、もうやり直しなんてきかない。忘れられない」
 忘れられない、暗い目であいつらをにらみつけた彼も、そしてメアリーをかばって人を殺した時の感触も、と彼女は自分の手をかざしながら言う。
「パンドラの活動にも賛成はできない。あんたたちとは多分相容れない」
「彼を永遠に彼でいられるようにしてあげるといっても?」
「それは彼が望んでない」
 彼は面白いよね、と兵部は飄々と語る。
 自分に正直であり、人に優しくもあり、そして……自分のすべてを隠さないと。
「馬鹿正直なのはあっちの彼と同じでしょ?」
「でも一つ違うのは、彼はエスパーの気持ちがわかるということ」
「まあそうね」
 パンドラにはそんな人材が必要なんでね。と兵部は語る。彼は楽しそうに笑っていた。
「……実際難しいと思うわ、パンドラの活動自体ねえ、『一』は嫌ってたし」
「どうして?」
「必要以上にノーマルと係わり合いになりたくないし、争うつもりもないみたいなのよ。自分たちだけでのんびりと過ごしたいってのがあいつの考えらしくて、昔はもっと過激だったんだけど」
 私もそうかな、もうノーマルとは係わり合いになりたくないし、実際かかわってないし、と明は言い切る。
「……じゃあパンドラには仲間がいっぱいいる」
「でもパンドラにいるのは貴方の崇拝者ばかりでしょ? 私たちは貴方のことを正直よくわからないし、崇拝もできないわ」
 長い黒髪を彼女は掻き揚げる。そしてもういってよ。なんとか彼の希望を叶えるヒュプノ能力者をみつけるから、としっしと手を振る。
「ボクは犬かい?」
「ある意味犬ね」
 マンションの中で笑っている皆本が一瞬だけ、ほんの一瞬だけ、暗い目で薫達を見る。
 ああそろそろ目覚めるのね、と明はふうとため息をを一つついて、どっか行って、とまた手を振る。
「……あの目は一かい?」
「暗い目をしていたわよ。あの頃はもっとね」
 暗い目で、薫達を見て、一瞬だけ寂しげに皆本は笑う。
 それを見てどうした? と心配そうに薫が尋ねる。
「なんでもないなんでもない」
 柔らかく優しく次の瞬間彼は笑い、早く学校いかないと遅刻だぞ、と彼女の肩をぱんと叩く。
「……タイムアウトかな……さあ、行かないと」
「……つれてってあげようか?」
「どこに行くのかも知らないくせに」
「……エスパーたちだけが隠れ住むアンダータウンだろ? あそこならヒュプノ能力者も多分いるし」
「……さすがパンドラの首領ってわけね」
 まあ取りあえずあんたがついてきてもらったほうがいいか、明は手を取り出す。
 では、と彼はその手をとって、姿を二人一緒に消した。

「エスパーであること、多分それは絶対の孤独だわ、でも人は一人では生きられない。だからこんなところができるのね」
「……まあそれはそうとして、なんでお前がいるわけ?」
 ほらタバコ、とぽんと明が箱を投げる、悪いとそれを一が受け取ると、タバコは体に悪いよ。と兵部がちょっとだけ顔をしかめた。
「……火をくれ」
「はいはい」
 タバコを一本とって、口にくわえる。それに自動的に火がつく。
 兵部を見て、タバコを吸ってると、少しだけ能力が抑えられるんだ。と一が反論する。
 どこか貧民窟のような暗い街の一角で、タバコを吸いつつ、何か考えるようなそぶりをする一。
「……パンドラの首領がこんなところきてるってばれたらやばくね?」
「……大丈夫、ボクの存在はここでは認識されないようにしてるから、えっと……」
「光一か、一でいい、まあとりあえず俺はサングラス程度で大丈夫だろう、それほど皆本は顔を知られてないしな」
 黒いサングラスをつけたまま、彼は笑う。
 やっぱりちょっと悲しげな笑い方、と兵部は思う。
「……キミは彼とは一つにはなれないのか?」
「無理だ。俺自身がそれを拒否してるし」
「なぜ?」
「俺はノーマルを憎んでる。やつらさえいなくなればいいと思っていた時期もあった。だから無駄だ」
 明がヒュプノ能力者ならレベル5程度ならいるらしいわよ。と情報を明かす。
 タバコ、体に悪いからやめたほうがいい。と兵部が警告すると、お前もきちんと食事はとれよ。と一が応酬する。
「……善処するよ」
「……メアリーにはカップラーメンしか食べさせないということとかはやめてくれな」
 もう一本吸わせてくれ、と彼はまたタバコを取り出す。今まで吸っていたものを道に放り出して、足で火を消す。
「なんかほんと違うね皆本クンとは」
「あいつはいいこちゃんだし」
 時々どうしてあいつから俺が生まれたのか疑問に思うよ。と苦笑とともに彼は答えた。
「……でも見てると面白い」
「はいはいありがとう」
 あいつはいいやつだ。と彼は言う。
 チルドレンたちも愛してる。
 バベルも愛してる。
 そして人それぞれ平等に愛してる。
「……でもね、一、それは絶対の孤独だわ。自らにとって世界で一番がいないって」
「あいつは多分未来でそれをみつけるんだろうさ」
 でも『俺』はチルドレンたちを愛してない。と一は言い切る。
 あるのは閉鎖された世界でいた時の記憶だけ。
 三人で暮らしたあの短い時間。
 孤独を三人で慰めあって生きていただけの時間。と一はため息をついて、兵部に語る。
「……どうして、キミ達だけで?」
「……能力の発現が突然すぎたからかな? 誰も信用なんてあの時はできなかった」
 バベルにいた局長も、それにパンドラの首領も、すべて信用なんて出来ない。
 三人でかたよせあって生きてきた。と彼は語る。
「……メアリーはどうして? キミ達のことをおぼえてなかったんだい?」
「……いい里親を見つけて、記憶を消して……幸せに暮らしてると思ってたんだ。でも利用されていた。ブラックファントムに目をつけられるなんてな」
 一瞬だけ思い出した記憶、メアリーと目があったときに思い出した悲しい記憶。
 私を殺して、といわれたときにすべてを思いだしたのさ、と一は語る。
「メアリーが自分を殺せっていうなんてさ。多分たくさんの人を洗脳させられたんだろう。無理やりにな」
「私は裏社会で今は生きてる。人を殺すのももう苦ではなくなった。でもメアリーや一のことは助けたい。だからこそ、私は一の存在を安定させたいのよ。皆本を消すつもりはないわ。一緒に彼らが生きられれば」
「それは無理だよ、明」
 奴は俺のことなんて知らない。知らせるつもりはない。と一は語る。
 兵部はどうして? と小首をかしげて彼を見た。
「無理だよ。あの記憶を思い出せば、やつだって多分ノーマルを憎むだろう」
 ノーマルに利用されそうになった日々、三人だけで暮らした逃亡の日々。
 どうしてもどうしても思い出す。
「空港でのあの地獄はノーマルが作り出したものだ。ダイレクトにあの時の惨劇の人の心が流れ込んできた。ヒュプノってことは精神系の能力だろ? あの時のことは思い出したくない」
 地獄だよ。とぼそっと一はささやく。
 彼は町を暗い目で見て、そしてノーマルがいない分、ここで暮らすってのもいいかもな、と切ない声で言った。
「皆本クンのようにキミも優しい人だよ」
「ありがとう」
 記憶なんて思い出さないほうがいいんだ。とタバコから煙を燻らせ彼は語る。
 明は額に手をあてて、そして深いため息を一つついた。
「ねえ、兵部」
「なんだい?」
「……皆本と一を共存させることはできない?」
「無理だね、多分……どちらか一人の意識を眠らせて、一人を独立させるしかない。彼らはもう違う自我をもってるみたいだし」
 ボクはどちらかというとこっちの彼のほうが面白いし好きかもね。と兵部はせせら笑う。
「……俺はお前が嫌いだ」
「……あっちの皆本クンは?」
「俺が嫌ってるよりはお前のことを嫌ってない」
 手を組んで笑う兵部を見て、ちっと一つ彼は舌打ちした。
「どうしても性格がエスパーってのは悪いよな」
「そうだねえ」
 お前とは多分気があいそうにねえよ。と舌打ちする一。そうだね、とクスクス笑う兵部。
 ああ最初にこの人に相談したのは間違いだった。と明は頭痛が酷くなるのを感じていた。

 

「二重人格を直す方法? そんなものはないな」
 レベルは6、それほどは低くはないはずだ。
 しかしヒュプノ能力者ははあとため息をついて、三人を冷たい目で見る。
 まだ若い男だった。
 薄汚れたビルの一室で、男は汚い椅子に座っていた。
 椅子とベッドしかない、そんな廃ビルの一室。
 一はタバコをすぱすぱと吸い、明にいたっては、怒りのあまり顔が真っ赤になっている。
 兵部は飄々とした様子で男を見ていた。興味深げに。
「……なぜ?」
「どちらかを消して、どちらかを生かすなどは僕の能力でも無理だけど、どうも今表にでてる意識の以外のほうは知らないっぽいじゃん、そっちのやつのこと、なら統合とかは無理だぜ」
「……なら俺を消して、あいつを生かしてくれ」
「それはできるけどさあ」
 明の激昂した顔を見て、男はまたため息をつく。
 どうもそっちの姉ちゃんは統合のほうがよさげじゃん、といって。
「……キミはどうしてこんな場所にいるんだい?」
「もう普通の奴らのなかで生きるのに疲れたからな」
 一は、できるなら俺は消えてもいい、とタバコの煙を燻らしてそして深い哀切に満ちた目で男を見た。
 明は統合ならともかく、消去はだめよ。と一の腕にすがりつく。
 兵部は興味深げにやはり男を見るだけ。
「……なら、パンドラ……」
「僕はノーマルと争う意思もない」
 ただ人生に揺られ揺られて生きるだけ、とこの界隈では最高レベルである能力者は語る。
「……それに、そっちの兄ちゃんは自我があるんだし、僕は人殺しはごめんだし」
 こんなのに頼んだのが間違いだった。と明はくいくいと一の手を引っ張り、退出を促した。
「……でもそんな生き方もいいかもしれないな」
 兵部は初めて一の意思を見たような気がその言葉を聞いて一瞬した。
 一はできるならば、そんな風にいきてみたいな。と深い悲しみに満ちた目で男を見た。




皆本が二重人格とか、能力者だったり。かなりオリジナル設定が強い作品です。そういうのに拒否反応がある人はよまないほうがいいかも(汗
明・リー、メアリー・ロゼ。というオリキャラがいます。相棒に捧げます。


[*前へ]

9/9ページ


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!