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あの子越しの私 沖田
「アヤセは本当にミツバ殿に似ているなぁ。」
よく言われた言葉。
「双子みたいにそっくりだよな。」
最初は嬉しかったこの言葉。
でも、歳を重ねるごとにこの言葉は私を縛り、苦しめた。
私とミツバは幼い頃からの親友であった。 血が繋がっているのか何なのかは分からなかったが私とミツバは顔が双子のように似ていた。私とミツバを見た目だけで判断できる人は少なかった。
人見知りが激しく、友達の少ない私と比べて、ミツバは誰にでも優しく隔たりなく接することができた。それを羨ましく思っていたし、ミツバのような人に温かさを与えられるような人になりたいと思っていたから双子のようだといわれることはとても嬉しかった。
でも、頑張ってもミツバにはなれなかった。
ミツバより器量もよくないし、愛想も悪いし不器用な私を誰も見ようとしてくれなかった。ミツバと私を比べた。その度にミツバや近藤さんはアヤセにしかない良いところがあると、それを分かってくれている奴がいると言ってくれたけど言われるほどに惨めになるだけで、ミツバの事は好きなのに憎しみばかり生まれていた。
そんな中私はどこかミツバに勝たねばという想いもあり、刀にすべてを捧げた。
ミツバが出来ないことを私がやるんだ。私を私として見てもらいたいが一心で毎日刀を振るった。
私はそこんじょそこらの男には負けないくらいの力をつけられたと思う。
それでも比べられる声は止まなかった。
女の子が刀なんか持ってと、もう少しおしとやかな女性になれと。
「姉上!………っていない、アヤセ姉上は?」
道場の台所で軽く昼食をと思い、ミツバと握り飯を作っている最中だった。暑い日だったので倒れないようにとミツバを休ませているところだった。
総悟は後ろ姿で私達を見分けることが出来る数少ない内の一人だ。さすがシスコンとでもいうべきか。
「ミツバは、今休んでる。」
もう、昼休みかと聞くと、そうだと答えるので早く完成させなければと飯を握る手を速めた。
すぐに皆の所に戻ると思っていたのだが、総悟はぼんやりと私の作業する手を見ていた。
「ねぇ、総悟」
「なんでィ」
「ミツバと私は似てる?」
聞いた直後に後悔した、なんでこんなこと聞いたんだろう、この手の話で私は嫌な思いしかしたことないのに。これじゃあ自分から傷つきに行っているようなものじゃないか。
ごめん、今のなし、と言おうと口を開こうとすると総悟の声に阻まれた。
「何言ってんでィ、姉上とアヤセは似ても似つかねぇ。」
ほら、やっぱり。何でこんなこと言ったんだ。こんなんになるじゃないか。
惨めな気持ちになるじゃないか。
「………何で、アヤセは姉上と自分を比べるんでィ。お前はいつも人から比べられる事を嫌がってるけど、一番比べてるのはお前自身じゃないんですかィ。」
そんなことを言われるとは思わなかった。今まで総悟は私とミツバについて何も言わなかった。
私は近藤さんやミツバみたいな反応をするものだって思っていたから、どんなリアクションをしていいのか分からなくて何も言えなかった。
「お前が欲しいのは慰めの言葉でさァ。そうだよな、慰めてくれるときはお前のこと見てくれるもんなァ。」
私の中の何かがガラガラ崩れていくような気がして足元に浮遊感を感じた。
私はそんなものが欲しくて話していたの? そんなちっぽけなものを欲しがっていたの? 違うよ、そうじゃない。総悟の言ってることを否定するために色んな理由を絞り出そうとしてみたけど見つからなくて譫言のように違う、違うとしか言えなかった。
こんなに動揺するってことはきっと総悟の言ってることは真実なんだ。
「あら、総ちゃんどうしたの?」
ミツバが暖簾をくぐって朗らかな笑顔を見せ、場のピンとした空気が溶けた。
「昼休みだから水をもらいに来たんでさァ、もう、練習に戻ります。」
総悟はいつもの良い子の総ちゃんモードに切り替わり、外へ出ていった。
「アヤセ? 大丈夫、顔色悪いけど…… 暑くて疲れたんじゃない?」
どうして俺はあんな言い方しかできないんでさァ。
「………惚れた女にはいつもこうだ。」
そう小さく呟くと何だかモヤモヤとした気持ちが出てきたので、それを振り払いたくて練習場まで足を速めた。
沖田の口調分からん……
沖田くんは好きな子には優しく出来なさそう、というイメージが私にはあります。
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