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真夜中の戯言 土方
夜中嫌な夢を見た。昔の記憶。忘れられない私は今も昔に囚われたままだ。
汗をかいて濡れてしまった襦袢を新しいものに変え、タオルで軽く汗を拭った。
普段は騒がしい隊舎も物音1つしなかったのでここは違う場所なのではないかと錯覚した。
時計は2時を指し示していたが、眠気が襲ってくる気配もなかった。
眠気が襲ってくるまで起きていようと音に気を使いながら戸をあけるとちょうど月が見えた。
縁側まで出ると縁に腰掛け月を眺めた。
月はとてもぼんやりと薄暗くこの歌舞伎町を包み込んでいて母なる大地を照らしていた。
月が夜に輝くのは人々の心を明日に向け清めるためだと思う。月の光には人の汚さや、醜さをすべて受け止めてくれるような神聖さがある。
斜め後ろにある土方さんの部屋の障子が控えめにカラカラと音をたて開かれた。
「こんな夜中にどうした。また寝れねえのか。」
土方さんが隣に座る。ふわりと煙草の香りがし、土方さんだ、と安心した。
「はい、そんなところです。」
土方さんが私の過去を聞きたがっていることは知っている。そしてそれを私が言い出すのを待っていることも。
普段なら気づかぬ振りをしてそのまま違う話かなにかをしていただろう。
でも、今夜は何だか昔話もいいかななんて、この人ならいいかななんて思ってしまって。
「土方さん、私の昔の話聞いてくださいますか。」
土方さんが驚くのを気配で感じた。私は返事を待たず話始めた。
人は誰しも嫌な記憶のひとつやふたつあるものだ。その内容に違いはあれど、重さをとやかく人と比べるものではないと思うんです。
どんなに頑張っても他人の痛みなどわかるはずがないのだからどちらの方が不幸だったかなんて誰にも分からない。
私は今から不幸自慢をするのではないことをここに誓います。
こんなに月が綺麗な夜だから私の戯言も月の光が消し去ってくれるでしょう。
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