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ブラックコーヒーの魔法 土方
それは日常のひとこま、私が喉が乾いてキッチンまで何か飲み物を探しにいった時のこと。

もう彼のキッチンのどこに何が置かれているかは把握している。ふとそんなことを思って彼といる時間の長さに今更ながら気がついた。
私の猛アタックに彼が根負けする形で付き合い始めたので正直、付き合った当初はここまで長続きするとは思っていなかった。

長続きしたのは彼が私のことを好いてくれたから、だと思いたいのだけど、まだ彼からはっきりとした『好き』だとか、『愛してる』だとかいう言葉を聞いたことが無い。第一彼の仕事柄会える時間も少ない。

だから、今日は一ヶ月ぶりの室内デートである。

真選組の仕事が忙しくて大変なことも、彼の性格上そういうべたべたしたことが出来ないことも分かってはいるのだけど、不安になる。

彼は私のことを好きでいてくれてるのだろうか。


久しぶりに彼に会えたのになんてことを考えてるんだ、と頭を切り替え棚の中から紅茶缶とティーポットを取り出す。これは私の家から持ち込んだ物だ。これで紅茶を淹れる度に彼の家に私の物がある、と嬉しくなる。私がこの家に居るという痕を残せているような気がして。

「何か飲む?」

刀の手入れをしている彼にそう問うとコーヒーという声が聞こえた。

ティーカップ、コップとインスタントコーヒーの缶も取り出し、やかんに火をかける。

砂糖が切れかかっていたのでこのあと買いに行こう。私が使う分の砂糖はありそうだ。

彼はいつもブラックコーヒーを飲む。ブラックコーヒーは彼によく似合っていて私は彼がブラックコーヒーを飲んでいる所が好きだ。

「ブラック飲めるって凄いよね、私は苦いの駄目だからいいな、って思う。」

彼の生返事しか返って来ないのはわかっているけど、私も飲めるようになりたいなと呟いた。

シュンシュンとやかんが水が沸騰したことを告げ、私はティーポットとコーヒーの粉が入ったコップにお湯を注ぐ。

ブラックのコーヒーと砂糖たっぷりのミルクティーをお盆に乗せローテーブルに運んだ。

はい、と彼の前にコーヒーを置くと、彼はコップを持ちコーヒーを口に含むと私の胸ぐらを掴みグッと引き寄せた。

何事だ、と驚いた次の瞬間感じた唇からの温もり、苦い液体。

いきなりだったので体がついていかず液体の少しが気管に入ってしまい、咳き込んだ。

学生時代プールで感じた鼻がツーンとなる感じだ。懐かしいなんて考えていた。

トシが背中をさすってくれこともあり、咳は収まった。

「いきなり、どうしたの?」

二年も一緒にいるのにキスもしてくれなかった。そのなかでこれがあって、私のなかで沸き上がったのは嬉しいという感情より、何で、という疑問だった。
嬉しくなかった訳では決してない。

「コーヒー、飲めるようになりたいんだろ。………急に悪かった。」

「!」

そう言うと、彼はまた刀の手入れに戻ってしまった。でもその顔はほのかに紅くて。
あの小さな呟きも彼に届いていたことが嬉しかった。

だから、ありがとうって小さく呟いてみた。

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あきゅろす。
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