『君が居る一人暮らし』 1 今日は金曜日。午前中は講義はなく、午後に卒論ゼミの勉強会を3コマ入れてある。 終わればそのままゼミ仲間たちと食事や飲み会に流れることが多いので、なるべく金曜日はバイトを入れない、というのがゼミ内での暗黙のルールになっている。 だから今日は、バイトがない。……のだが、 「はぁ……急にシフト交換の電話入らねぇかな〜」 出かける前、深くため息をつきながら携帯電話を見つめる、俺。 「何で? 今日は家で飲み会じゃないの?」 と言ったのは、再放送の時代劇のドラマを見ていた、我が家の地縛霊、田盛優(享年24才)。 彼の言うとおり、今日は家で飲み会がある。さっきも言った、金曜恒例のゼミ飲み会である。 何でも今回は、俺の引越し祝い兼、新居お披露目会ということで、いつものように居酒屋ではなく、俺の部屋にみんなが来ることになっている。西先輩という1コ上のゼミの先輩が、俺の許可なしで勝手に企画したのだ。 おかげで、今日はせっかくの午前休みが、大掃除でつぶれてしまった。今なら誰が入ってきても恥ずかしくない、男の一人暮らしにしてはとてもキレイな部屋だ。 だが、 「……その飲み会キャンセルしたい」 できることなら、この部屋にあまり人を入れたくない。 何故なら、 「えっ、俺楽しみにしてるのに!」 ……これだ。 「……何で優さんが楽しみにするんですか」 「だって真理ちゃんが家にお友達連れて来て遊ぶなんて初めてなんだもの! ママお料理はりきっちゃう!」 ……えーと、どれからツッコめばいいのか、……とりあえず、 「マリじゃねぇ、シンリだっつってるだろ」 優さんが俺の名前をしつこく(故意に)間違えるから、最近、流しそうになってきて危ない。これはきちんとツッコんでおかねば。 「つか……マジで今日は何もしないで大人しくしてて下さい。……前みたいにアヒルとか作ってんじゃねーぞ」 大学ではクールで通ってる(つもりの)俺のキャラを壊すようなことはしてくれるな、と念じながら一睨み。 ていうか、キャラうんぬんの以前に、幽霊が出る部屋に住んでることが他人に知られたら色々面倒臭い。 というわけで一応、今日はみんなが家にいる間、優さんには姿を消しててもらう約束だが。 「やだな〜、冗談だって。料理もアヒルも作んないよ。大人し〜くしてる」 ……何か企んでそうな、やけに軽い(いつものことだといえばそうだが)返事が、怪しい。 飲み会、無事に始まり、無事に終わりますように……。 「はぁ……ま、いいや。行ってきます」 「行ってらっしゃ〜い。……あ、真理くん! 忘れもの!」 「え?」 「優さんに、行ってきますのチューは?」 「ない」 ご丁寧に、唇を突き出しながら玄関まで見送ってくれた優さんを、ドアで遮り、鍵をかけ封印した。 [次へ#] [戻る] |