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『君が居る一人暮らし』
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「奈々たちおそーい! 2人きりで何してたんだ! 怪しいぞ!」

 イッチーにからかわれて、奈々ちゃんは赤くなって反論していたが、俺はもうそれどころじゃなくて、気もそぞろ。いつにも増して我関せずな感じで無表情で別のことを考えていたので、特に本気で何かあったんじゃないかと疑われることもなく、他のペアもそれぞれ無事にきもだめしを終え、揃ってみんなで旅館に帰る。

「俺、ここでちょっと電話していくから、みんな先に帰ってて」

 帰り道にある売店の公衆電話の前で、皆と別れた。
 もう11時くらいか。売店はすでに閉まってて、辺りが真っ暗な中、緑の公衆電話だけが寂しく光っている。百円を2枚入れ、自分の携帯番号をプッシュした。

『……はい、……』

 夜遅いからか、公衆電話だからか、長い呼び出し音のあと、小さい声でおそるおそる、といった感じで優さんが電話に出た。

「優さん、俺です」

『真理ちゃん? ……どうしたの、こんな時間に。今日はさっき、お休み〜って電話してくれたのに』

 ……あ、そうだった。合宿中は、夜の電話はいつも夕飯後に済ましてたんだった。もちろん今日も。

「……そうでしたっけ? ……飲んだから、自分が電話かけたのか、まだだったか解らなくなってた」

 あまり酔わない俺には、苦しい言い訳だけど。

『あ、そうか〜、勉強は今日までだったんだね? 打ち上げ飲み会でもしてるのかな、お疲れさん』

 ニコリ、と笑う優さんが想像できて、俺の顔にも自然に笑みが浮かぶ。

『じゃ、あと1日、思いっきり楽しんでおいでね〜。お休み……』
「まっ、待って! ……今日は、箕田の携帯からじゃないから、急いで切らなくていいんです、」

 もう少し、話したい。

『公衆電話でしょ? お金もったいないよ』

「もう、百円玉入れちゃったから、ギリギリまで話さないと、それこそ勿体ないです」

 本当は二百円入れたけど。

『そう? じゃあ百円切れるまで話しとこうか』

「……はい。……今、何、してますか」

『……んー……。ゲームしてたよ。なかなか進まないね、これ』

「え、ドラゴン物語? ……そんなに難しいゲームじゃないはずですど。優さんオタクのくせに、意外にゲーム音痴?」

『あはは、そーなのかな?』

 受話器から、ブーッと聞こえ、百円の落ちる音がして、慌ててポケットから小銭を出して追加した。

「……毎日、退屈してるでしょ、俺が居なくて寂しくないですか?」

 俺からばっかり電話して、俺だけ寂しいみたいで何か悔しかったから、そう聞いてみた。

『……』

「優さん? 聞いてる? ……もしもし、聞こえる?」

 少しの間が空く。俺の部屋、ところどころ電波の入りが悪い場所があるから、もしかして聞こえていないのかも、と思って呼びかけてみた。

「もしもーし、優さ……」
『……寂しいよ……。……真理くん早く帰ってきて……』

 ……!……

『……なーんてね。ビックリした? 久々に1人でまぁちょっぴり寂しいけど、前と違ってテレビも携帯もあるし、お菓子もあるし、快適に過ごしてますよ〜』

 ……嘘つけ。

 ……昨日の深夜アニメが面白かっただの、RPGよりパズルゲームが意外とハマって時間忘れるだの、急に明るく話しだす優さんが、めちゃくちゃ胡散臭く感じる。
 何ださっきの声は? あれが演技だって言うなら、主演男優賞くれてやるわ!
 
「そーですか。ならいいけど。……明後日、お土産持って帰りますから、引き続きしっかり留守番お願いします」

 ……胸が苦しくて、これ以上電話を続けられそうになくて、会話を終わりに導く。

『うん。明後日まで良い子に留守番しとくから、ぜひとも美味しいお土産よろしく〜』

「はいはい。楽しみに待ってて下さい。……お休みなさい」

『うん、……待ってるね。
 ……お休み!』

 ……受話器を置くと、後から追加した十円玉や百円玉が、全部戻ってきた。
 何だかやるせない思いで、その硬貨たちを引っ掴んで、ポケットに戻す。

 やっぱり、何かおかしい。優さんのあんな声聞いただけで、潰れそうなほど、胸が、苦しい。
 ……俺は優さんに、憑りつかれている。

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あきゅろす。
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