『剣斬!』 参 「…何だよ」 ガラッと戸が開き、少年が鋭く睨み上げてくる。 「こちらで少し雨宿りさせて頂きたいのですが」 「勝手にしとけばいいだろ。どうせさっきからそこに居たくせに」 と、また戸を閉めようとした。 「そうではなくて、中で、できれば明日の朝までお願いしたいのです」 「図々しい」 「宿代のお礼はいたします」 「…」 少年が少し考えた。そして、戸を開けたまま中へ戻った。 「中も外も同じようなもんだ、入ってもいい。…だけど、泊めるかどうかは兄者が帰ってきてから相談する」 「ありがとうございます。房丸殿、上がらせて頂きましょう」 狭い長屋の一部屋に、万名と房丸が入っていく。 「…またこわいひときたの?」 部屋の奥から可愛い声がしたかと思うと、小さな女の子が駆けてきて少年の足にしがみついた。 「大丈夫、さっきの人じゃないよ。雨が降ってるから、濡れないように家の中に入れてあげてるんだ」 少年は、先程とは打って変わった優しい笑みを浮かべ、女の子の頭を撫でた。 「可愛いですね、妹さんですか?」 「…あぁ」 「ではあとお兄様と、3人でこちらに?」 「うん!うめとね、あにじゃと、たけにと、3にんなの」 女の子が、小さい指で一生懸命”3”を作って万名に見せる。 「ふふ…梅ちゃんっていうんだね。”たけに”とは竹お兄さんということかな?お名前を呼ぶ時は竹殿でいいですか?」 「…妹は梅三(ウメミ)。俺は竹二(タケジ)だ」 「竹二殿ですか、よろしく。私は”みゆ”と申します」 「金剛房丸です」 竹二が、梅三を使い、2人に座布団を与えた。 「ありがとうございます」 「…茶は無いぞ、家は貧乏なんだ」 「お構いなく。雨が凌げるだけで充分です」 言葉づかいは乱暴だが、客を気遣う心が、「茶は無い」と言った竹二のそわそわとした様子から見て取れ、万名はクスリと微笑んだ。 よく見ると、女の子のように優しい面立ちをした子である。客に座布団を運んだ妹をねぎらうように抱き上げる手つきも、柔らかく、慣れたものだった。 「…優しい子ですね、」 房丸も、それを感じとったらしく、小さな声で万名に告げながら、暖かい眼差しを兄妹に送った。 [前へ][次へ] [戻る] |