『剣斬!』 伍 「…ところで、仙さん、今後のことなんですが…」 ”みゆ”が、改まった様子で仙助に話を切り出す。 「房丸殿の旅装も整えたいので、私は一端、江戸に戻ろうかと思います」 仙助が、あっ、と思い出したように手を打った。 「そうそう、そうだ。ああ、でも、そういうことならちょうどいいや。 いやね、先頃、伊助の旦那のお使いが走って来てゃしてね、発ったばかりにすみませんがすぐに江戸へお戻り下さい、ってぇ伝言を預りましてね」 「そうなんですか、何かあったのでしょうか?」 「…しつこい”お客さん”が来てるんだそうですよ。戻ってくるまで居座る!なぁんて言ってるそうです」 「…そうですか。じゃあどっちにしろ、江戸に戻らないと、か」 「へィ。 …すみませんが、あっしは仕事があるんで、このまま西に向かいやす。お荷物は、どうしやしょうか? 江戸に送り返しておいた方がいいですかねぃ?」 「いえ、ちょうど今、受け取ろうと思っていたところです。運んで頂いて、ありがとうございました」 みゆが礼を言って、仙助から何かの風呂敷包みと刀を受け取った。 その様子を側で見ていた房丸が、遠慮がちに”みゆ”に声をかける。 「あの、よかったら、お荷物、お持ちします」 房丸的に、か弱い女性に荷物を持たせて、自分が手ぶらでいるのは、何だか落ち着かない感じがしたのだ。 「え? …いいのですよ、房丸殿は私の奉公人ではなく用心棒なのですから」 「でも、重そうですし…」 「これくらい、平気です。…でも…そうですね、そんなにおっしゃるなら、これを、」 と、”みゆ”は刀を房丸に渡した。 「房丸殿に差し上げます」 「、………………ええっ!? いえ、あのっ、そういうつもりでは…」 慌てて刀を返そうとする房丸。 「元々、宿に戻ってから差し上げるつもりだったので、お渡しするのが早くなっただけです。お気になさらず」 「い、いただけません! こんな上等な物…」 「いえいえ、特に名もない普通の脇差しですよ。房丸殿のお持ちの物を鍛え直すまでの代わりにお使い下さい」 房丸の刀は、大分年期が入っていて、錆や刃こぼれが酷かった。それでは万一の時に自分を守れないから、と”みゆ”は返された刀をもう一度房丸に押し戻した。仙助も、そういうことなら遠慮なくもらっておけばいい、と房丸に勧める。 納得したような、それでもやはり気になるような、複雑な顔で、房丸は刀を受け取り腰に差した。 [前へ][次へ] [戻る] |