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『魔王に就職』
魔王と接触(※セレア視点)《2》
 
 魔王軍のおかげで戦に勝ったのだから、私も約束を果たさなければならなかった。
 例の卵を、魔王に渡さなければ。

 巣に置き去りだったあの卵は、いくら魔力と生命力に富んでいても、さすがにあのままではそのうち腐ってしまう運命だっただろう。が、私は約束のためにその卵を持ち帰り、戦の合間にわずかな時間を見つけては、ひとりで卵を育て続けていた。忙しさにかまけてまだ結婚をしていなかったため子育ての経験もなかったが、かき集めの知識と本能で何とかなるものだ。そうして何度となく魔力を送り続けるうちに、情のようなものも湧いてきた。
 しまいには本当に自分の子のように思えてきたものだ。

 そんな卵を、魔王へ明け渡す……それも、ダラス殿ではなく、身元もよくわからない人間の魔王へ。
 不安がないと言えば嘘になる。だが、今更約束は違えられない。

 仕方なく、卵を魔王城へ持参し、魔王へ面会を申し出た。

 城では、ダラス殿の代から魔王の側近をつとめているナウラス殿に案内を受け、応接間に通された。
 応接間には、魔王配下四天王の1人、黒騎士のエンダリオと、何の変哲もない人間が、居た。
 この人間が、魔王であると理解した私は、とりあえずは礼を尽くして初見の挨拶を述べた。普通の人間に見えるが、何しろダラス殿のいない魔王城を、こうして何事もないように保っているほどの力の持ち主だ。あまり油断はできない。風の噂にも、彼の治世の見事さは聞こえてくる。魔王城は現在、魔王アズマの統治の下、とても穏やかで過ごしやすいと。

「……これから、お国の立て直しなどで大変でしょうが、頑張って下さいね!」

 グッと両手で握りこぶしを作り、挨拶の返事の中で私を励ます魔王アズマ殿の気取らない仕草に、得体の知れない人間魔王との初対面で緊張していた肩の力が抜け、思わず笑みが零れた。
 ……成る程、これは魔王城が平和で穏やかな訳だ、と、ひとり妙に納得した。

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あきゅろす。
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