『魔王に就職』
孵化の条件《7》
前後に並んで飛龍に跨がり、ナウラスは手綱、俺はナウラスの腰をつかまえる。
「行ってらっしゃいませ、」
にこやかに手を振るリッゼに見送られながら、ナウラスが跨がった脚を前方に伸ばし飛龍の脇辺りをトンと蹴ると、飛龍がフワリと身体を浮かせた。
「わ、わ……」
足が地面から離れ不安定になった身体を、ナウラスの腰に軽くまわしていた腕に力を入れることで固定する。
「しっかりつかまっていて下さい」
飛龍は斜めにユルユルと上昇し、地面はどんどん遠くなる。わぁぁ、ヤバい。下は見ないでおこう。そんなに恐怖症とかではないにしろ、あんまり高いところ得意じゃなかったんだった。
ある程度昇ると、斜めにではなく、地面と平行にゆっくり前進する。昇る時に後ろに滑り落ちないように、飛龍の腹に巻き付けてしがみついていた脚を緩め、少し前に身体をずらしてナウラスにぴったりとくっつく。
「! ……ア、アズマ様、」
あ、ちょっとくっつきすぎかな。操縦しにくいかもしれない。
「ごめん、何か落ちそうで……。くっついたら邪魔?」
馬とかも乗ったことないし、イマイチ生き物の乗り方が解らない。こうして寄り掛かる面積が広い方が安定する気がするから、できればくっついていたいんだけど。
「い、いえ、邪魔ではありません」
よかった。
「ねぇ、竜人族の集落ってどの辺?」
リッゼの館がある東の分領地の街並がだんだん遠ざかる。東の分領地はリッゼの館から南に広がる形で街を構えている。今俺たちが目指している北東には、魔王城から見えるような深い森が綿々と続いているのみで、集落っぽいものは見えない。
「向こうに見えるあの山の裏側にあります」
と、ナウラスは答えてくれたが、……あの山、って、もしかして、あの遠くに小さくうっすら蜃気楼のように見えるあの白いのか?
「……もしかして、めちゃめちゃ遠くない?」
ナウラスってば、時速30キロくらいのものすごい安全運転で飛龍動かしてるけど、今日中に行って帰れないんじゃないのか、これ。
「はい……」
「はい……、って。……できるんならもう少しスピード上げた方がよくない? セレアも待ってるんだよな?」
「そうですけど、アズマ様の安全が第一ですので……」
って、セリフ棒読み! ナウラス、ガチガチだ。緊張の余りの、極度の安全運転なんだな……。でもこれじゃ、きっとたどり着いた頃には日が暮れてる。
「ナウラス、俺は大丈夫だからもっと飛ばして。落ちないようにしっかりつかまっとくから、」
目の前の肩に頭を預け、ギュッと、ナウラスに抱き着くようにする。サラサラの長い髪が、風に吹かれ俺の顔を撫でてくすぐったいけど、我慢。
「!」
「うわっ!!」
急に、グンッとスピードが上がった。
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