『魔王に就職』 孵化の条件《2》 「いえ……失くした指輪が見つかったのは、良かったです」 謝る俺に、静かに首を横に振り、そっと微笑むナウラス。……でも、良かったと言う割には、あまり嬉しそうではない。 ……まぁ、そりゃそうか。洗濯物から出てきたりなんかしたら。 ……ナウラスは洗濯物から出てきたのは、失くした古い方の指輪だと思ってる、のかな。……そうだよな、俺、カイリが返しに来てたこと言ってないし。見た目には古いのも新しいのも同じに見えるし。 このまま、そういうことにしておこうか……。一応、カイリ達は魔王城にとっては侵入者だ。親切に指輪を返しに来て、何も害は無かったとはいえ、こんな所まで来たことを知ったら……、ただでさえ俺のことに関しては過保護で心配性なナウラスが、卒倒してしまうかもしれない。 「な、失くしたと思ってたら、洗濯物の中に紛れてたのかー、 ……今後、気をつけます」 「……本当に、お気をつけ下さい……」 再び、右手をとられ、渡された指輪も再び奪われた。人差し指から古い指輪が外され、洗濯物から出てきた新しい指輪を嵌められる。 「ナ、ナウラス?」 何の意味? 「……魔王の証は、魔王しか嵌めてはいけないのです」 ……? 「先程確認させて頂きましたが、こちらの方には、先代までの魔王とアズマ様の他に、違う者の気が混じっている……汚れた指輪です。処分させて頂きます」 え? ……あれ? 「そちらは、私がアズマ様の為に作らせた、……完全にアズマ様の指輪です。もう、失くさないで下さいね……」 寂しそうに微笑むナウラス。 こっちが、新しく作った指輪で、向こうが、……何だって、先代までの魔王と、違う人の気? ……もしや、カイリの。 てことは、バレてる。 俺がここ数日してたのが、失くしたはずの古い指輪ってこと。 [*前へ][次へ#] [戻る] |