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『魔王に就職』
勇者再び。《1》
 
 俺の魔王生活は、もう6ヵ月目に突入している。季節はまだ夏。窓から見える外の景色は、強い陽射しが森の緑を蒸し上げて、いかにも残暑、というような濃い陽炎を作っている。これにセミの声でも聞こえたら完璧だが、こっちにはセミがいないのか、はたまた森が遠すぎるのか、あの聞くだけで暑くなるような夏の風物詩の鳴き声は聞こえてこない。
 クーラーなんてついてはいない城内だが、高台にあるため風通しはよく、そんなに暑さは感じず、過ごしやすい。

 だからか、外は暑そうなのに、今が夏だなんていう実感が全然なくて、この間、盆休みで実家の方に帰った時に何だか時差ボケというか季節ボケみたいになってて、浦島太郎じゃないけど、ちょっと変な感じだった。城はこんな風に常に快適温度だし、俺としては、ここでの暮らしはまだ始まったばかりの春〜初夏な気分でいたのに、元の世界に戻ると嘘みたいに夏・真っ盛り。特に俺の地元は日本でも南の暑い地域だから、嫌でも今が真夏の8月だという現実を突き付けられ、その時改めて、4月に転職してからもうすぐ半年になるんだ、ってビックリした。

 何だか、あっという間の半年だったな……。盆休みもらう直前には色々あったけど……、基本的には平和で、穏やかで、単調な毎日の繰り返し。暇は暇だけど俺にはそれが苦じゃなくて、ゆったりした時間の中で1日1回ナウラスのフワッとした幸せそうな笑顔が見られれば、とりあえず俺も幸せな気分になる。
 楽しい日々が多いと、時って過ぎるのが早いんだよな。きっと俺の浦島太郎はそのせいだ。

 そんな考え事をしながら3時のおやつのアイスクリームをスプーンでつついていたら、溶けそうになってて、慌てて口に運ぶ。

 ナウラスは今日はマスカのいる北の分領地へ買い物に出ている。
 魔王城のある中央の地域は、森とこの魔王城だけしかなく、物資の調達などは四方の分領地にある街に足を運ばないといけない。特に北の分領地は商業が盛んで、城で必要な物は大体そこで揃うため、ナウラスもよく利用しているようだ。人間もたくさん住んでいて、賑やかな街が多いらしく、遊園地や動物園など遊ぶところも色々あるとマスカが言っていた。楽しそう。今度、マスカのところにも遊びに行きたいな。

 溶けた分のアイスを、行儀は悪いが器から飲むようにして完食し、食べ終わった後に小魔物たちを呼んで片付けさせる。

 はー、おいしかった。

 いいって言われてたから、ナウラスの分まで食べちゃった。太るかなー。後で中庭でも走るとするか。

 とりあえず今は、食べたばっかりだから、座ってゆっくりしとこ。
 簡易な背もたれ椅子を、窓際に移動させる。この場所、俺の部屋の中では最近1番のお気に入り。午後は太陽も射さないし、眺めはいいし、爽やかな風が入って気持ちがいい。あまりの心地良さに、つい窓枠にうつぶせてうたた寝してしまったことも何回かある。

 今日もいい天気。

 夏の太陽に照らされた、きれいなくっきりとした青空と森の緑。鮮やかな色彩のコントラストが、俺の故郷の色によく似ていて落ち着く。

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あきゅろす。
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