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『魔王に就職』
西の館のツンデレナイト《11》

「……阿呆。死なん、これぐらいでは」

 ビクッとした。いきなりしゃべった、と思ったら、エンダリオはついでゆっくりと身を起こした。

「死人を見るような面しやがって……」

 手を伸ばして、俺の頬を親指で拭う。……あ、泣いてた、もしかして俺?
 一端そう気づいてしまえば、涙は遠慮なく目から出ていく。

「ちっ、何本格的に泣いてやがる、面倒臭い」

「だ、だって……っ」

 さっき、もしそのまま目を閉じたら、エンダリオ、死んじゃうんじゃないかって思ったから……。
 もう誰も、俺のせいで死んだりなんかしたら、嫌だ。

「こんな怪我は、食って寝たら治る。縁起でもない考えをするな」

「ごめ……ん」

 本当に、大丈夫なのか……?
 言ってることは力強いけど、声はか細い。

「……それより、腹が減った。持ってきたんだろ、昼飯?」

 食わせろ、とエンダリオが言うので、俺は慌てて応接室に戻り、城から持ってきた弁当を取る。もう今日は俺はエンダリオの言うことなら何でも聞く。土下座でも、3べん回ってワンでも、何でもしてやる。……だから、死なないで。
 応接室と廊下に残る大量の血の痕に震える足を叱咤して、走って薬品室へ戻った。

「……大丈夫だって言ってんだろ。バタバタ走るな、喧しい」

 良かった……。俺が行って戻る間に動かなくなってたらどうしようかと思った……。

 それからエンダリオは、あんな怪我をしながらも普通に弁当を完食。……一緒に食べた俺の方が食欲なくて、半分以上残してしまった。
 そして食べた後は、そのまま少し寝ると言い出した。

「寝室まで、運ぶ?」

 こんな椅子に座ったまま、疲れないだろうか。

「……薬を塗った後はあまり動かさない方がいいから、ここでいい」

「そう……」

 しっかり食べたからか、さっきよりは顔色はいいけど、まだちょっと元気とは言えないエンダリオに、俺の不安は消えない。

「……え、エンダリオ、……手、握ってていい?」

 エンダリオが眠ってしまっても、何か異変があったらすぐ解るように、どこか身体に触れていたかった。

「……はぁ?」

 瞼を閉じかけていたエンダリオが、呆れたように眉をひそめる。

「……う、嘘。やっぱいい、ごめん……」

 俺も、さすがにそれはやっぱり変だと思い返し、撤回、

「……」

 ……しようと思ったら、エンダリオが左手を俺に向かってゆらりと上げた。

「……寝てる傍でメソメソされるよりマシだ、好きにしろ」

 ううう嘘!! あ、あのエンダリオが、手を握らせてくれるなんて! しかも、俺に!

 エンダリオの気が変わらない内に、その手を両手で大事に握りしめた。
 たくさん血が抜けたからか、とても冷たい手……。右手で繋ぐように指を絡め、左手で手の甲をそっとさすった。……俺の体温が、少しでも移ればいい。
 チラッとエンダリオの顔を見ると、もう寝付いたようだった。寝息は普通に安らかで、ちょっとだけホッとした。

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