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『魔王に就職』
勇者参上。《18》

「ごめんナウラス……心配かけて」

 わずかに乱れた前髪を、そっと解かしつけてやる。ナウラスは、ひどく安心した、といった表情で、目を閉じて俺の指を受け入れた。

「たいしたお怪我がなくて何よりでした……」

 そうなんだ、言われてみれば、どこも怪我とかしていない。あの高さから落ちて、平気だったんだな。意外と丈夫じゃん、俺。

 落ちる瞬間を思い出し、今更ぞっとする……


「…………!……カイリ、」

 思い出したのは、穴の深さだけではなかった。

「カイリは……、
 ……ナウラス! 地下水路で、俺以外に、一緒に誰か倒れてなかった?」

 ナウラスに詰め寄る。もしかして、一緒に助けてもらえてたら、と一筋の望みをのせて。

「……いいえ、……誰も」

 戸惑った様子のナウラスの瞳に、絶望した俺の姿がうつる。

「……誰、なのですか、その方は」

 困惑してますます顔色の悪いナウラスに、俺はあの日あった出来事を全て話した。

「……何と、それでは、その方はアズマ様の命の恩人……」

 恩人も恩人、大恩人だ。レベル低いくせに、いっちょ前に勇者きどりやがって、魔物から俺を助けたり、よしよししてくれちゃったり、指輪も探してくれてたり、帰りも送ろうとしてくれたり、落とし穴から助けようとしたり……

 色々思い出しながら、カイリが見つけてくれてた指輪を触ろうとした手が、目標を探せない。

 指輪……してない。……寝てたから、外されたのかな……とは思ったが、何だか嫌な予感がして、慌てていつも指輪を保管している宝石箱を開ける。

「……ない……。ナウラス、俺の指輪は?」

「……そういえば、なさっていないようでしたが……」

 せっかく、見つけてもらったのに、……どこでまたなくしたんだろう。記憶をたどるが、特に気にしていなかったため、どの時点まで指輪があったか思い出せない。可能性が高いのは、穴に落ちたときか……

「ごめんナウラス、……大事な証の指輪、またなくしたみたい……」

 代々引き継がれて来たのであろう、大切な魔王の証の指輪をなくしたことへの申し訳なさと、無事のわからないカイリへの想いで、俺は宝石箱のある鏡の前で、顔を歪めた。
 鏡に、情けない泣き顔が映る。

「アズマ様……指輪はいくらでも作れます……。よろしいのですよ、貴方が無事でさえいてくれれば……」

 どこまでも優しい言葉で、ナウラスが俺を抱きしめてくれる。それがカイリと重なってしまい、余計に涙がとまらなかった。


<END>

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