『魔王に就職』
勇者参上。《12》
「グルル……グルルル!」
間もなく、背後を、興奮した様子の魔物が走って過ぎていくのが解り、だんだん遠ざかっていく足音に、ホッと安堵のため息をつく。
「……よかった……、助かった」
「……本当に。……あ! ご、ごめんね、思いきり壁に押し付けちゃった。大丈夫、シンジさん?」
俺から離れ、アワアワと焦りながら謝るカイリ。まぁ確かにちょっと苦しかったけど、別にいいのに。むしろ、おかげで助かったし。
こうして慌ててるのを見ると、さっきの頼れる勇者様なキャラと、ずいぶんギャップがある。何だか、思わず小さく吹き出してしまい、
「……うーん、尻に何か当たってたけど、まぁ大丈夫」
なーんて言ってみたりするけど、もちろん嘘〜。
腰を押し付けてたわけじゃないので、そんなに意識するほどは当たってないし、それより魔物に見つかるのではという恐怖で、そんなの気にする余裕もなかった。その前に、カイリは鎧を着けてるから当たってもそれは鎧でしかないんだけどね。
俺を気遣う健気なカイリが可愛くて、いじめたくなったのだ。このテのタイプは、からかうとめっちゃいい反応してくれるから、面白くて大好きだ。
「えっ、う、ウソ!? ごご、ごめんなさい! 僕そんなつもりじゃ……」
案の定、カァーッ、という擬態語が全くピッタリな様子で、首から上を真っ赤にして更に焦りだす。
「嘘ぴょーん。カイリ顔真っ赤っ赤、うんうん、可愛いね〜」
7つも年下ということもあって、俺もついオヤジが入ってしまう。
「……もう、シンジさんの意地悪!」
気に入ったコはイジメるのが、男の子ってもんでしょう。
そんな感じで、ちょっとは緊張も解れつつ、上にあがる階段を求めて廊下を進む。
魔物は今日は数が少ないためか、あれ以来なかなか遭遇することもなく、しばらく行くとあっさり階段が見つかった。
「あ、階段あった。……ありがとう、カイリ、もうここでいいよ」
階段まであと10数メートル程。もし魔物が来てもダッシュで4階まで逃げ切れる。
「そう……でも、ここから階段昇りきるまでちゃんと見届けますね。……シンジさん、では、気をつけて」
ちょっと寂しそうな笑顔で、右手を前に出す。
……う、俺も何だか寂しいぞ。
「カイリ……、ほんとに、本当にありがとな……」
会ってそんなに時間は経ってないけど、色んなことがありすぎて、もうずいぶんと長い付き合いであるような気分になる。
別れが異常に名残惜しい。
またいつか、会えるだろうか……でもその時は、カイリが俺を討伐しに来た時だったりして。
色んな想いが、胸に込み上げてきて、返す握手もそこそこに、ガバッとカイリに抱き着いた。
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