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『魔王に就職』
勇者参上。《11》

 ……

 外の様子をうかがいながら、カイリが部屋の扉をそっと開ける。

「……大丈夫みたい、行こう」

 ギュッと俺の手を握る手が、少し汗ばんでいて、カイリの緊張がすごく伝わってくる。思わず俺も、キュゥ、と強く握り返した。

「……よし、まずはあの向こうの角まで走ろう」

 部屋を出たとこの廊下が、少し行ったところで開けた場所へ繋がっており、そこには先程俺を襲ったのと同じタイプの魔物が一匹、暇を持て余す感じでウロウロとしていた。
 見つからないように、向こう側の廊下の続きまで行かなくてはならない。

「後ろ向いてる、今だ、」

 あまり音を立てないようにして、2人で広間を駆け抜ける。

 だが、もう少し、というところで、運悪く魔物が振り返ってしまった。

「グルルル……ニン、ゲン……!」

「やばい、シンジさん早くこっち!」

 向かってくる魔物に恐怖で一瞬足が止まりそうになったが、カイリに力強く引っ張られ、我を取り戻す。

 向こう側の廊下に走り込み、すぐにあった分かれ道で迷わず右に曲がった。曲がった先の壁にあった僅かな隙間に、カイリが俺を押し込め、自分が蓋のようになりながらピタリと壁に張り付く。

「こうしてれば、向こうから来ても多分見えないから、そのまま通り過ぎてくれるはず……」

 はぁはぁと息を切らしながら、小声で囁くカイリ。俺は壁に向かって、後ろからカイリに押し潰されるような格好になり少し苦しかったが、浅い呼吸を繰り返して上がった心拍数を整える。

「グルルル……グルル……!」

 魔物が追い付いてきた。2人、息を飲み、更に壁際に、同化する勢いで張り付く。

 心臓の音が大きすぎて、気づかれんじゃないかって心配になる。背中に感じるカイリのドキドキも、俺に負けないくらい激しいものだった。

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