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『魔王に就職』
勇者参上。《10》

 ……そりゃ、いくら勇者様でも城を簡単に攻略されちゃったら、魔王としては困りますから。レベル高いのは当たり前なんだヨ。

「……でもまぁ一応、ここまで来てるし、上にあがらなければ大丈夫なんだろ? 俺も何とか足手まといにならないように頑張って着いてくよ、」

 魔王城は、階を上がるごとに魔物のレベルが上がる。もしカイリがこの3階を限界に感じたのだとしても、4階に上がらなければ、今以上に強い魔物は出てこないのでそんなに心配する必要はないはずだ。もちろん油断はできないけど。

「ううん、恥ずかしいけど、今の僕のレベルでは、本当なら玄関から一歩も入れないくらいなんです。ここまでこれたのも運だけの奇跡。
 今日は、城からたくさん魔物が出ていくのが見えたから、チャンスと思って入ったんだけど……」

 ……。
 えーと、それは……、いわゆる空き巣ねらい、ですか、勇者様?

「でもまだまだ全然ダメだった。
 それで、いざとなったらこの笛使うつもりで、せっかく来たんだから一応行けるとこまで行ってみようって魔物を避けながら進んでたら、シンジさんが襲われてるのを見て、……気がついたら一緒に走って、ここまで来て、……」

 おかげで俺は助かったわけだが、勇者、本当何やってんだよ……

 ……でも、俺も昔ゲームでよくやったかも、それ。自分のレベルよりやや高いダンジョン入ってって、敵に遭わないようにしながら、高レベル品の入った宝箱荒らしてったり。危なくなったらダンジョン抜けの魔法とか使ってさ。そこで手に入れた武器とか防具が、自分と同じレベルの敵相手にかなり強力で役に立つんだよなー。ふふふ。

 まー、そんなわけで、リアクションにいまいち困りつつ。

「あ、でもちゃんとシンジさんのことは何としても無事に階段まで送るからね! ……敵から逃げ隠れしながらだから、ちょっとカッコ悪いかもしれないけど……」

 いや、カッコ悪いのは、俺は今更だから全然平気。だけど、……

「カイリ、やっぱり無理しなくていいよ、俺も自分で何とかするから……」

 余裕な感じで送ってもらえるんなら、もろ手を挙げてお任せしちゃうが、そうでないなら、レベル低くてか弱い人間を、俺のせいであんまり危険な目に合わせたくない。

「ううん、駄目。……送らせて」

 だが、カイリは諦めなかった。真摯な瞳で、俺を真っ直ぐ見つめてくる。

「、はい……」

 その押しに逆らえず、そう返事してしまった。

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