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『魔王に就職』
勇者参上。《6》

「……落ち着きました?」

 抱きしめられて、よし、よし、と背中を撫でられてた俺は、おかげさまで大分落ち着くことができたが、今度は恥ずかしくて顔が上げられない。
 事態が事態だったとはいえ、見知らぬ男の胸を借りて思いきり泣いてしまうなんて……。

「見たところ魔導士って感じだけど、貴方も冒険者、かな?」

 落ち着いたかとの問い掛けに小さく頷いたはいいが、後は黙ってしがみついたままの俺に、男は構わぬ様子で話しかけてくる。今日着ている紫のローブのせいで、魔導士だと思われた。

「いや……、違います」

 会話が始まってしまったので、渋々、男から離れた。大の男2人がひっついたままでトークはさすがに寒いだろ。
 身体が離れたことで、改めてお互いの姿を確認する。
 男は動きやすそうな小ぶりの革の鎧に、腰には日本刀の脇差しのような細身で適当な長さの剣を差していた。自然な栗色の髪と久しぶりに見る日本人的な黒い瞳に、これが初めての出会いのはずなのに、どこか男への懐かしさを感じる。
 しかし……、いや、ちょ……そんなにまじまじと見ないで欲しい。こっちはまだ目も赤い泣き顔だってのに。

「そう……。でもじゃあ何でこんなところに……。危ないよ、貴方みたいな人が1人で歩いてたら」

 う……。俺だって来たくて来たわけじゃない。

「……え…っと、探し物をしていて……」

 ……今の恐怖体験のせいで、探せる自信もなくしちゃったけど。
 ああ、そうだよ、指輪……、どうしたらいいんだ、本当に。ふとついたため息も、力なくひょろひょろとした情けないものになる。

「探し物? ……何を探してるの? 僕も一緒に探しますよ、良かったら」

 落ち込んで俯き加減になっていた顔が、パッと上がる。
 何、この人、めっちゃいい人なんだけど。会ったばかりの俺のために、一緒に指輪を探してくれようだなんて!

「ほ、本当に……? ……あ、あの、すいません、ありがとうございます!」

 あ、何か、希望が湧いてきた。指輪ちゃんと見つかる気がしてきた。期待と感謝を込めた目で、男を見つめる。

「いいよ、気にしないで。困ってる人を助けるのが、勇者の役目だからね!」

 ヒュー!さすが勇者! カッコイイ!

 ……って、……えっ、……勇者?

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