『魔王に就職』
勇者参上。《1》
「アズマ様……それでは、行って参ります」
ナウラスが、そう言いながらも、一歩も動かず俺の前に立ったまま、
「……、やはり、心配です……」
ため息をつき、ガクリと首をうなだれる。
「もう、そんなに心配しなくていいってば。今までだって、平気だったんだし、」
何のことかというと、ナウラスが城を留守にするので、残される俺のことを過剰に心配しているのだ。……って俺は幼稚園児のガキかっ。もー呆れる通り越して笑えるんだけど、ナウラス本人は大まじめなので、我慢しとく。
まぁ、今回の留守はちょっと長めでいつもとは違うので、ナウラスもこうやって不安に思うのかもしれないが。
魔王配下四天王の1人、ドゥーガの分領地で、ちょっとしたトラブルがあって、ナウラスに助けを求めているのだ。
ドゥーガが治める南の分領地の境界近くにある人間の国から、兵が押し寄せてきたらしい。はじめは何とか防いでいたが、数も多く中々追い返すことができず、気の弱いところもあるドゥーガはお手上げで、ついに魔王城の軍を頼ってきた。
ナウラスはその要請を受けて、これから城の精鋭軍をひき連れ南の分領地へ向かうのだが、
「終日……いえ、2〜3日はかかるかもしれません、その間、アズマ様を1人にしておくなんて……」
この調子で、さっきから後ろ髪を引かれっぱなしなのだ。
「1人……ってゆーか、小魔物たちもいるんだし、ホント大丈夫だから……それより、心配なのはドゥーガだよ。こうしてるうちにも、ナウラスが来るの今か今かと待ってるんだから」
早く行ってあげて、と、ポンと背中を押し出してやった。
「……そうですね、わかりました。……では、改めて、行って参ります……」
ようやく、決心したようだ。
「気をつけてね」
「はい……アズマ様も」
なるべく心配させないように、笑顔で見送る。
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