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『魔王に就職』
竜人の卵《5》

「本日は、先代と約束していた、例のものを持って参った」

 あ……、卵のことだ。

 セレアは応接間の入口まで行き、扉の外側に置いてあった大きな包みを大事に抱えて戻ってきた。
 包みの柔らかい布を解くと、白くて長丸い、卵。ニワトリの卵みたいな形ではなくカプセル状の長丸だ。そしてデカイ。俺が身体を丸めればギリギリ入るかもくらいの大きさ。

「凄い……大っきぃ……」

 初めて見る竜人の卵に感嘆のため息。

 この中に、次の魔王が入っているんだな……。

「触ってみても、いい……?」

「っ、馬鹿、よせ、」

 エンダリオに小声で止められたが、セレアが一瞬驚いた顔をした後、

「もうこれは魔王アズマ殿のものだ、好きになさるといい」

 と許可してくれたので、遠慮なく触ることにした。

 台座に立てられた卵に、そっと、触れてみる。卵なんて、スーパーで買う鶏卵しか触ったことないから、冷たくて硬いものを想像していたけど、竜人の卵は殻の周りにうっすら皮膚のような膜があり、思ったより柔らかさを感じる。あと、中に生命があるからなのか、普通にあったかい。……本当に凄い、この中に命が入ってるんだよ、信じられない。

 なぁ、お前。良かったな、先代魔王に拾われて。あのまま戦争で死んじゃわないで。父さんと母さんは、居なくなっちゃったけど、代わりにみんなに愛されて、望まれて生まれるんだ。
 きっとみんな大切にしてくれる。だから、将来は、この城のことよろしくな……

 生まれてくる次期魔王に語りかけるように、優しく優しく何度も撫でた。すると、トクン、と卵の中から反応があった気がした。

「あ……」

 思わず、卵に顔を寄せた。ピタリと耳を付け、目を閉じる。
 …聞こえる、小さいけど、トクン、トクンと生きている音が。母性本能っていうのか、愛おしい気持ちが湧いてきて、そのままほお擦りした。

「……っ、」

 ゴンゴンと誰かの咳ばらい。目を開けふと見上げると、セレアだ。何故か怒ったようにわずかに上気した顔を、思いきり背けている。

「おい、お前、いい加減に……」

「アズマ様、もうよろしいでしょう、」

 エンダリオとナウラスが慌てた様子で俺を卵から離す。
 何だ何だ、やっぱり卵に触るのマズかったのか?

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あきゅろす。
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