『魔王に就職』
竜人の卵《1》
バンパイア族のキースが来た、あの色々あった日からもう数日が経っている。
その後、10時や3時のお茶の時間を利用して、少しずつ、ナウラスから改めて次期魔王や竜人族について説明してもらい、ついでにその他の勢力やその相関関係についても簡単に教えてもらった。
こうして聞くと、魔族のこともあんまり詳しく知らなかった俺だが、人間の国々を含む他の勢力やあちこちで行われている戦争のことなどは本当に初めてのことばかりで、ここに来て四ヶ月も過ぎるというのにいかに自分がこの世界のことに無知だったか、思い知った。
それなのによくぞこんな魔王に誰も文句をつけなかったもんだ。……あ、エンダリオがそういえば初めから認めてなかったっけ、俺のこと。はぁ……それも今考えたら当然のことなんだな。
「申し訳ありません……私のせいで、アズマ様に恥をかかせてしまいました」
ナウラスが、暗い顔を伏せる。
「いや……、俺も自分から尋ねたりしてなかったし、」
本当は、一応仕事なんだから、そういうことに対してももっと関心を持って良かったんだよな。特に次期魔王のことは、俺の契約更新にも関わることだし。
「……アズマ様が心患うことのないようにと、あまり明るくない話題を避けていたことが、こんな風に魔王としてのプライドを傷つけることになるとは……」
……うーん。正直、そこまで傷ついてはないんですけどね。ただ、そんなに過保護というか箱入り扱いしてくれなくてもいいのにとは思う。普段馬鹿みたいにやってるけど、俺も一応大人の男なんだから真面目な話の1つや2つ、やろうと思えば普通にできるんだよ。
でもま……そういう風に俺を気遣ってくれる気持ちは、嬉しいけど。
「あの、俺は頼りないし、何もできるわけじゃないけど、……これからは、もし大事なことがあったら、俺の顔色とか気にしないで話せるだけ話して下さい」
はい……、と小さくナウラスが頷く。
あーぁ、ナウラスを怒ってるんじゃないんだけど……、てか怒れる立場じゃないし。ナウラスと俺って、側近と魔王の前に雇用主と被雇用者な関係なんだよね。
でもナウラスも何か最近そのこと忘れてるカンジだよな。
「はいっ、じゃあこの話は終わりっ。
もー、そんなにヘコむなよ、ナウラスのしゅんとした顔見たら俺まで悲しくなる」
いつまでも暗い表情のナウラスの顔を、両手で挟み、ちょっとおどけた声を出して空気を変える。
「す、すみません……」
いきなり顔を包まれびっくりしたのか、朱くなって戸惑う様子が可愛い。
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