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『魔王に就職』
危険な客人《9》

 何か、あまりのん気には聞けない話だな……内乱って、戦争ってことだよな。魔王領は平和だけど、他所ではやっぱりそういうことがあるのか……。

「セレア殿はその卵を安全な場所に避難させ密かに育てているが、先代魔王は1年前に急死。その後はそちらもゴタゴタしてたから密約がどうなったかは解らないけど、恩義にあつい竜人族のことだから、それまでの協力の礼として卵はくれると思いますよ」

 ……何か、色々説明してもらったけど、ちょっと混乱気味ですよ、俺。
 てか、こんな大事そうな話なのに、初耳っていうのが……。俺が名ばかり魔王なのは承知の上だけど、キースみたいな外部の者からこんな話聞くなんて、立場ないってゆーか……。情けないとゆーか……。

「ね? ……ですから、ナウラス殿に捨てられて途方に暮れてしまう前に、今のうちに私の所へおいでなさい」

 いつの間にか席を立って、傍に来ていたキースが、俺の頭を撫でながら顔を横から覗き込むように目を合わせてきた。

 幻惑的な血の色の瞳。
 仕種も表情も優しく穏やかなのに、全然落ち着かず逆に焦燥感にかられる。急かされる心臓が苦しくて、目の前の微かな温もりに縋り付きたくなる。

 でも……、

「ごめんなさい。気持ちは嬉しいけど、今はまだ契約中だし、俺からはここ辞める気ないから……」

 さっきのおまじない、あのナウラスの暖かい想いが全部嘘だとは思いたくない。大事な話を教えててくれなかったのは残念だけど、例え契約期間内に俺が要らなくなったとしても、無下に捨てられる、なんてことはない、はず。

「……ふふ。そうですか、それは残念。
 まぁ……でも考えておいて下さいね、そんな顔見せられちゃ益々……放っておけないので」

 ……ん? どんな顔してんの、俺?

「失礼……ちょっと味見を、」

 チュ、と左の下まぶたに吸い付かれた。

「キース!!」

 ガタッと椅子の動く音がしたかと思うと、俺の頭上でキースの胸倉につかみ掛かるナウラス。

「おっと、ナウラス殿。暴力は困るよ、さっきも言ったけど喧嘩をしに来たわけじゃない」

「……アズマ様におかしな真似をすればただで帰すわけにはいかない」

「ちょ、ちょ、待って落ち着いて、ナウラス。俺大丈夫だから、」

 多分、キースの目力にやられそうになって涙目なってたから、その涙吸われただけ。だと思う。
 てか、ナウラス怖いから! マジ落ち着けって! ……殺気って、本当に感じるもんなんですね、ヒェェ〜。

 怖いながらも何とかナウラスをキースから引きはがし、席に座らせる。

「ふふふ、何だか色々御馳走様。……それでは私は怪我しない内に帰るとしますね。ナウラス殿ご機嫌よう。魔王殿、いいお返事お待ちしていますよ」

 食後のデザートが出てくる前だったが、キースはさっさと帰ってしまった。
 去り際のウインクがまた自然で感心してしまう。

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あきゅろす。
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