『魔王に就職』
危険な客人《5》
・・・・
起きたときには、身体はすっかり回復していた。部屋は薄暗くなっていて、窓の外はオレンジ色。ちょうど1時間くらい寝てたようだ。
そろそろキースが来るから、ちゃんと目を覚ましておこう。
ベッドから下りて、軽くストレッチ。お腹空いたなぁ。ナウラスじゃないけど、フラフラする。
「アズマ様、そろそろ、……あ……もうお目覚めでしたか」
俺を起こしにきたナウラスと対面。うん、元気そうだ。良かった。
「先ほどはすみませんでした。お身体は大丈夫ですか?」
バツが悪そうに、恐る恐る、といった感じで様子をうかがっている。
「うん。まぁ、さっきはヤバイと思ったけど、寝たら治ったし。今は時間的にお腹は空いてるけど、別にそれ以外は普通かな」
むしろ、何かスッキリしてる気がする。言い方は悪いけど、射精した後みたいな……。さっきは初めてだったから怖いのが先行しちゃったけど、今思えば凄い気持ち良かったし。身体的には何もないけどあれは結局イッたってことだよな。自慰みたいにむなしくならない分、気分までスッキリだ。浄化されたってカンジ。
「良かった……。私のせいでアズマ様に何かあれば、キースのことをとやかく言えなくなるところでした」
……言われてみれば、気を移すのも血を吸うのも、他人から力を奪う点では似たようなもんか。でもどっちかつーと血とられる方がやだな、痛そうだし。血が苦手なんだよね。献血も想像するだけで貧血しそうになるし。ナウラスがバンパイアじゃなくて良かったな。
「ま、無事だったんだし、あんまり気にしないでよ。あれくらいだったらいつでも協力するから、また調子悪くなったら遠慮しないで言って」
「ありがとうございます……」
俺も気持ちくなるから、とゆー下心があるとは知らず、感謝の気持ちで深々と頭を下げるナウラス。……ゴメンね。
「えっと……今日は、目を見て下さい」
キースに会う前、念のための結界魔法をかけるときに、ナウラスはそう言った。
「キースの目力に負けない、おまじない、です」
効果があるかはわかりませんが、何もしないよりは……、と付け加えて。
肩に手を置かれるとクセでつい少し右に逸らしてしまう顔を、あごに手をかけられ、正面に戻しやや上向きにさせられる。
ああ、やだなー。前はナウラスの方が恥ずかしがってたから、面白くてわざと見つめたりしてたけど、こんな美形さんに真剣な表情で見つめられた日には、ドキドキしすぎて心臓がヤバイ。
ナウラスの瞳は深い森の色。ガラスのように綺麗に澄んで、俺の姿も映って見えるほど。
……あ、そうだ、ナウラスの目に映る自分を見ていれば、あんまり恥ずかしくないかも。
「いけません、アズマ様、ちゃんと私を見て下さい」
……だってぇ〜。
でもそう言うナウラスも、少し顔赤くして恥ずかしそうだ。
まぁ、もともとこういうのあんまり得意じゃないからな。それでも頑張ってくれてる。俺のために。
……よし、わかった! 俺も覚悟決めた! さあ来い!
気をとりなおして、再度見つめ合う。何ていう魔法か知らないが、ナウラスから目が離せない。言葉はないけど、優しくて暖かい想いが視線を通して俺の中に入ってくる。キースの入る余地などないくらいに、俺の中がナウラスでいっぱいになるように。
そうして想いがあふれそうになったころ、仕上げにいつもの結界魔法をかけられた。
「さあ、行きましょう」
応接間へ。
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