『魔王に就職』
危険な客人《3》
「気?」
「はい……少しだけでいいんです。こんなことを魔王である貴方にお願いするのは、本当はあってはならないことなんでしょうが…今のままでは、どうにも力が入らなくて……。何かあった時に貴方を守れないのではないかと……」
そう言うナウラスが、とても儚く見えて、もう気でも何でも持ってっちゃってくれ、という気持ちになった。
「そんなん、お安い御用だよ。何だ、俺にもできることあるなら、普段から言ってくれればいいのに」
いつもナウラスにばっかり負担かけて、前から申し訳ないと思っていた。
「ありがとうございます。
……アズマ様の気を私に移すことになるので、多少身体がだるくなってしまうかもしれませんが、よろしいですか?」
「いいよ。俺より、ナウラスが元気になってくれたほうが、俺は守ってもらえるんだし」
でも、気を移すってどうやって。……はっ、もしかして、まうすつーまうす、じゃないだろうな!?
まぁ、それはそれで、相手がナウラスだから、どうしても無理なわけではないけど、……でも明日から何か気まずくなっちゃったりして。
うわー、緊張してきた。
「では、……失礼します。少し身体を抱きしめますが、窮屈なのは我慢して下さいね」
ナウラスが俺の正面に立ち、遠慮がちに抱きしめてきた。……ちゅーじゃないけどこれはこれで結構恥ずかしい……。
俺が大人しく身を任せているとわかると、抱きしめる腕に力が加わった。上半身が寄せられ、ぴったりとくっつく。ギャ、これ、俺の心臓の音まる聞こえじゃないかな……今、異常にドキドキしちゃってるけど大丈夫だろうか。
耳元でナウラスがふっと息を詰めるのが聞こえた。とたん、身体の力が抜ける。どうやら、気が移りはじめたらしい。ナウラスが俺に触れている全ての場所から、何か力が流れ出ている感じがする。
う……あ……やばい、何か、くすぐったいというか、痺れるというか、身体が溶けそうな……。力が入らない自分の身体が怖くなって、ナウラスの背中に腕を伸ばしギュッとしがみついた。すると、その腕からもナウラスへと気が流れているようで、俺は全身グズグズになってどうしようもなくなってしまった。
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