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『魔王に就職』
危険な客人《1》

 ……今日は朝からナウラスの機嫌が悪い。
 といっても、彼は周りにあたるわけではないので、はた目には少し元気がなくナーバスになっているように見えるだけだけど。

 何でナウラスがご機嫌ナナメなのかというと、今日は、応接間にあまり嬉しくないお客さんが来るのだ。

 人間の世界でもいくつも国が分かれているように、魔族の世界にも魔王の支配領地以外に独立した組織や集団、あるいは個人で活動している魔物がいたりする。そういった所の魔族たちには、魔王の威光はあまり届かず、とりあえず現在はほぼ友好関係にはあるものの油断はできない。
 今日来るのは、その中でもナウラスとは相性の良くない、バンパイア族のキースという男なのだ。

 魔王成り立ての頃に一度だけ会ったことがあるが、こちらもナウラスに負けず劣らぬイケメン。ナウラスがキレイ系な顔立ちなのに対して、キースはそこまで整った顔というわけではないが、フェロモン系というか、色気のある顔立ち。……で、顔はいいけど性格は何かねちっこく蛇みたいに絡み付くカンジで、また手クセが悪くしかも両刀なもんで、相手構わず実際に絡みついてきたりもする。簡単に言えばエロ男爵。真面目なナウラスがあんまり好まないのも解る気が、する。

 バンパイアは夜行性なので、来るのは日が沈んでから。訪問の時間的に、キースも俺達と夕食を一緒に食べることになる。客と食事をする時はナウラスの箸が進まなくなるので、ちょっと可哀相。
 それどころか、こんな天敵の来る日は朝昼もちゃんと食べれているか怪しい。食欲がないと言って、さっき3時のおやつもお茶だけ飲んで手をつけてなかったし。

 また前みたいに倒れそうになられても困るなぁ。俺が、もう少し、自分で自分を守れる程度に強ければ、ナウラスもこんなに気にしなくて済むんだろうけど。
 
「……ナウラス、大丈夫?」

 部屋で休んでいるナウラスを訪ねてみた。
 休んでいるというよりは、考え事をしているように、1人椅子に座って難しい顔でじっとしている。俺が入っていくと、眉間のシワを解いて立ち上がった。

「あ、いいよ、そのままで。……今日元気ないみたいだから、大丈夫かな、って。あんまり無理、しないでね」

 って言っても、俺が弱い限り無理だろうけど。

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あきゅろす。
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