[携帯モード] [URL送信]

『魔王に就職』
魔王へ愛を(※リッゼ視点)《1》
 
 ……私は蛇精のリッゼ。魔王配下四天王の1人であり、東の分領地の主を務めている。

 元の本性はただの大蛇だけど、長年生きて天地の気を充分にこの身に取り込み、魔力を身につけ、魔物になった。人型をとれば、自由に効く手足が(特に手が)便利で、もう百年近くも大蛇の本性に戻ったことはない。
 不死の身体を持つアンデッド系の奴らを除けば、私のような精霊系の魔族は、他の魔族に比べ長生きだからか、特に私みたいな身分のある精霊だと、物知りだという扱いを受けやすい。日々、探し物や悩みの相談に、色々な魔族や人間たちが私のところへやってくる。
 実際は、私はみんなが思うほど何でもかんでも知ってるわけじゃないし、ただ年寄りの知恵袋を貸してあげるか、悩みなら、黙って聞いてあげることしかできない時もある。それでも、何かしらの助けを求めて私の館へやってくる人達を、私は追い返すことができない。そんな私を、巷では、聖母のリッゼ、と呼んでくれているらしい。

 今日も、お悩み相談者がやってきた。



「やぁ、いつ見ても若くて美しいね、リッゼ」

 ………。
 ちょっと違ったみたい。

「……何しに来たの、帰りなさい、キース」

「おやおや、それはご挨拶だな。悩める子羊は例え悪人でも追い返さない、聖母のリッゼじゃなかったのかい?」

 手を取ってうやうやしく口づける仕草に、顔が苦く歪む。

「悩むようなしおらしい性格でもないでしょう、貴方は」

 どちらかと言えば、悩むよりは悩ませるほうじゃないかしら。それにこのキースは、バンパイアというアンデッド系魔族の一種。今いくつなのかわからないけど、初めて会ったのが私が人型をとるようになってすぐの頃だから、少なくとも百年以上は生きている。知恵袋なんか、手前のものを使えばいい。

「連れないなぁ、ご近所のよしみじゃないか。たまには君の美しい姿を見に来ることを許してくれたっていいだろうに」

 ……分領地を引っ越したい気分だわ。

 そうなのよね。どういう訳か、キースはバンパイアの癖に、他のバンパイア族の住む北西のほうではなく、この東の分領地に近い、北東の森に単身で住み着いている。きっとバンパイア族の中でも変わり者で、皆に嫌がられて追い出されたんじゃないかと思っているんだけど。

「それに、本当にお悩み相談に来たんだよ、私は」

 ニコニコと笑みを浮かべながらなのがどうにも嘘くさいんだけど、勝手に面談用の椅子に座り込んでしまったキースに、仕方なく相手をすることにする。

[次へ#]

1/5ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!