『魔王に就職』
魔王な姫様(※ガルシア視点)《4》
……話に無駄が多すぎて解りにくかったが、大筋は、こうだな。
魔王城の中で、魔物に襲われている魔法使い風の男を助け、その男を上の階に送る途中、罠にかかって地下の貯め池に落ち、何とか水から上がったものの、いきなり何者かに攻撃を受けて、このままここで死ぬかと思ったが、土笛の存在を思い出して吹いた、と。魔法使い風の男が、その何者かにさらわれてしまったということだ。
「魔王城に行かなきゃ……、僕はシンジさんを助けなきゃいけないんだ!」
「無理だ、諦めろ」
どう考えたって無理だろ。シンジとかいう男のことは、会わなかったことにして忘れた方がいい。
「諦めない。魔王にさらわれたお姫様を助けるのは、勇者の仕事だ」
……ん? 俺はどこかで聞き間違えたか?
「……さらわれたのは、魔法使い風の、男、だよな?」
「そう、名前はシンジさん」
「……俺はちゃんと話聞いてたつもりだが、どこから姫が出てきた?」
カイリは、少しだけ目を見開くと、頬を染めてモジモジしだした。……気持ちが悪い。
「シンジさんは男だけど、僕にとってはお姫様みたいなものなんだ……」
……長い付き合いだったが、知らなかったぞ、お前がそんな趣味だったなんて。
「何か、こう……守りたくなるってゆーか……魔物に襲われてるのを助けた時も、怯えて震えていたのを慰めたら、キュウッてしがみついてきたり、手を握ってても、何か僕を頼りにしてくれてるのが解るっていうか……。そうかと思えばやっぱさすが年上〜って感じに余裕で色々気を遣ってくれたり、」
……でも男なんだろ。
「そ、それに……キス、もしちゃったし!」
……いやいや、銀の粒を口移しに飲ませようとしただけだし、そいつ男なんだろ?
「ちょっと触れただけだけど、柔らかかっ」
何か浮かれてるカイリがムカついたから、脳天にチョップをお見舞いしてやった。
「なっ何するんだよ!」
「ヤローの唇の感触なんぞ聞きたくねーよ、気持ち悪ぃな」
気持ち悪いと言われて、少しヘコんだ様子のカイリ。言っとくが、俺は本当のことを言っただけだぞ。
「……あと、それに、指輪も返さなきゃ……きっと困ってる」
あぁ、さっきの話では、魔法使い風の男……シンジとやらは、無くした指輪を探して魔王城に来ていたらしいな。
「返したんだろが、」
さっきの話ではそうだった。
「うん。でも、穴に落ちる時は僕が持ってた。多分、捕まえてた手が離れちゃった時かなんかに、指輪だけ僕の手の中に残ったんだと思う」
と言って、ポケットから、その例の指輪らしきものを取り出した。……赤く、血のようにも見える石が、落ち着いた渋い色味の金のリングにくっついている。
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