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『魔王に就職』
魔王な姫様(※ガルシア視点)《3》
 
 来月頭、うちの全兵力がドゥーガの領地に攻め込めば、魔王城の奴らが黙っちゃいないだろう。援軍を出して、魔王城はいつもよりは手薄になるはずだ。
 カイリの危険も少しは減る、と思う。言い出したら聞かないコイツの、1回行って気が済むなら……

「つーか、絶対死ぬぞ、お前」

 何でそんなに嬉しそうなんだよ。

 翌月、魔王城へ出発するカイリに、持てるだけの回復アイテムと、ヤバくなったらすぐにここへ戻ってこられるように移動魔法効果のある土笛を持たせた。

「この土笛はその辺で売ってるのとは違う俺の特注だからな。基本的には普通のものと使い方は一緒だが、穴を塞がずにひと吹きだと俺の部屋に飛ぶことになっている。無くしたり壊したりすんじゃねーぞ」

 敵に襲われ、逃げようと土笛を使う時に、パニックで、街へ飛ぶメロディを忘れてしまう冒険者がいるのはよく聞く話だ。これはそんな時のための特注品。

「……あと、敵に会ったら戦おうとか思うな、とにかく逃げろ」

 とにかく、無事に帰ってこい。

「ありがとう、ガルシア!」

 ぶん殴りたくなるくらい、ウキウキと楽しそうに、カイリは魔王城へと旅立った。

 ……そして、数日後、俺の部屋に戻ってきた。……瀕死の重体で。

 外傷は、魔法攻撃によるもので、これだけの衝撃を受ければ恐らく即死間違いなしの酷いものだったが、運よく、持たせてあった回復アイテムの銀の粒を、死の間際に飲むことができたらしく、辛うじて息があった。

 俺が知り得る限りの有能な医師と白魔術士を全て呼び、どんな高い薬でも買い付け、カイリを回復させるために手を尽くした。
 結果、すぐにカイリは意識を取り戻し、身体の方も特に後遺症など無く、2週間程で元のように動けるようになった。

「馬鹿野郎、だから無理だって言っただろーが」

 瀕死の状態から救ってやった俺への、礼と詫びに来ていたカイリに、とりあえず文句を言わなければ始まらない。

「……うん、」

 ……何だ、やけにしおらしいじゃねーか、らしくない。コイツも流石に反省したか?

「まだまだレベル足りねーんだよ、俺にだって勝てねーヘナチョコのくせに」

「……うん、……」

 お、久しぶりに泣くかな。

「いいか、これに懲りたら魔王城には二度と行くな、」
「……それは無理。」

 ……は?

「もう少し身体治ったら、もう1回、魔王城に行かなきゃ……」

 ……コイツ、俺様に蹴飛ばされたいのかな?

「何、寝ぼけたこと言ってんだ、ドアホ。お前、ついこの間、死にかけてんだぞ、あそこで!」

「……だって、さらわれたんだ、連れ戻しに行かなきゃ!!」

 はい? 皿割れた……? って、ボケたくもなる。テメェ、1人で出かけただろうが、誰がさらわれるんだ。マジで寝ぼけてんのか?

「僕の目の前で……。悔しい、助けられなかった……」

 ポロポロと、大粒の涙を零すカイリ。
 ……何なんだ。何かあったのか、あの城で?

 鼻を啜りながら、魔王城での出来事を語るカイリに、仕方なく黙って耳を傾ける。

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