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『魔王に就職』
魔王の世界に出張中☆(※ユキ視点)《2》
 
 もうすぐ5月だけど、雪の深く積もった常冬の土地。寒さに強い動物たちと、雪や氷の精、雪女に雪男など、そんな魔物しか住まない北の果て。
 そんな真っ白の雪景色の中、まるで草原のような若緑の頭と、そこに咲くお花のような2つの赤い角が近づいてくるのを見つけ、ボクは喜びに獣の正体で駆け出した。

「お帰りなさい! お帰りなさい!」

 ボクは狐なんだけど、コッチで言ういわゆるキタキツネみたいな狐ではない。もっと小さく、どっちかというとフェネック?いやもっと小さい……大きさ的に1番近いのは、この間見た「風の谷のナウシカ」ってゆーアニメに出てくるキツネリスかなー。あんなに派手な尻尾じゃないケド。
 その小さな身体をピョンピョン跳ねさせて、ナウラスさまの足元に纏わり付く。

「……ちょうど良かった、お前に会いにきたんだ、」

 ナウラスさまが、足元のボクを少し辛そうに見つめながら、次の言葉を静かに落とした。

「……正式に、お前を使い魔として契約を結びたい」

 ……ぽかーん、と、ボクは口を開けたまま一瞬固まった。

「……以前は自由に生きろと言っておきながら、今になってこんなことを頼むのは、勝手だというのは解っている。だが他に適任が思いつかず……」

 すまぬ。と、ボクに小さく頭を下げるナウラスさま。

「はにゃー!? 何言ってるんスか! ボクはもうずっと、ナウラスさまの魔狐のつもりだったでス! 契約はとっくの昔に済んでるでスよー!」

 ……それはホントにとっくの昔の話。もう20年近くも前のこと。もともと、もっと南の森に住むただの小さな狐だったボクが、フラフラとこの常冬の地に迷い込んで死にかけた時、当時少年だったナウラスさまに助けてもらったのだ。
 寒さに身動きできなくなったところを魔物に襲われ、血もたくさん出てあの世への扉を開きかけたケド、たまたま通り掛かったナウラスさまが、魔物たちを追い払い、ボクを助けるために自分の血を分けて下さって、ボクは何とか一命を取り留めることができた。
 この血にはナウラスさまの魔力がたっぷり含まれていたから、ボクは普通の動物の狐から、魔物狐になってしまったのだ。

『魔狐になることは望んでいなかったかもしれないが……』

 その時少年ナウラスさまは助けてくれたのに何故か申し訳なさそうな顔をしながら、声変わり前の細く儚い声で、

『血を分けたことで縛ろうとは思っていないから安心しろ。元いた場所へ戻れ……』

 そう言って、立ち上がった。

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