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『魔王に就職』
魔王のお守り(※エンダリオ視点)《3》
 
「……あ、ここ、前の」

 そうだ、こいつが俺の屋敷に初めて来たときに、侵入者にやられた俺の傷を治すため、ここに入れた。……こいつは全然治療の役に立たなかったが。

「ここに座れ」

 あの時とは逆に、あいつを揺り椅子に座らせる。
 戸棚から適当な薬品を取り出し、袖を捲くったあいつの細い腕に擦り込んだ。

「! わっ、冷た」

 ビクリと肩を震わせるが、構わず塗り続ける。

「ギャ! 痛い、痛い! もうちょっと優しくしろよっ」

「我慢しろ、治療のためだ」

 ……ま、少しは私情も入ってはいるが。

「……よし。これでいい」

 薬が服に付かないように包帯を巻いて仕上げた。城に帰る頃には治っているはずだ。

「大袈裟だな、包帯なんて。
 ……でも、ありがと」

 ……別に、お前のためにやったわけじゃない。礼なんか言われたら、どうしていいかわからない。

「……悪かった」

 とりあえず、叩いたことを謝っておいた。

「そーゆーたまに素直なトコが可愛いんだよな、よしよし♪」

「! よせ、何しやがる」

 立ち上がったあいつにワシワシと頭を撫でられ、さっきの今でまた払いのけるわけにもいかず、身を後ろに引いて避ける。

「照れるなよ〜」

 くそ、こいつ調子にのりやがって……
 いつもこんなだから、こいつのお守りは嫌なんだ!

「ああもう、勝手にしろっ!」

 もう開き直って、揺り椅子にドカッと座り込む。

「怒んなって。褒めてんだから。俺お前のこと結構好きなんだぜ?」

 ……ナウラス様もそんなようなことをおっしゃっていたな。
 迷惑きわまりない。

「なのにつれなくされてさ、実はかなりへこんでたりして」

 椅子の脇にしゃがみ込み、顔だけ上げて上目づかいにこちらを見遣る。

「なっ……」

 そんな捨てられた仔犬のような目は反則だ。俺が犬好きなのをこいつが知るわけないが、椅子のてすりに前足……じゃない、両手をちょこんと乗せてるのなんか、……ヤバイ、思わず撫で回したくなる。

「落ち着け俺……こいつは人間……」

 ブツブツ自分に言い聞かせながら葛藤していると、

「また難しい顔してる……。
 なぁ、お前笑ったことあるか?」

 失礼な。人を何だと思って……

「俺、エンダリオの笑顔見たことない」

 当然だ。何でお前に笑顔を見せないといけないんだ。

「ちょっと笑ってみて、」

「断る」

「ケチ! いいじゃん少しだけー」

 阿呆かこいつは。

「笑う理由もなく笑えるか、ボケ」

「ぼ、ボケ……。ちっ……わかった。じゃあ強行手段で笑わせてやる! うりゃっ」

「!!」

 強行手段で笑わすのに、くすぐるとか、ガキか!

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