『魔王に就職』
魔王の誘惑(※ナウラス視点)《2》
「はい、準備OK。どうぞ、」
「……」
ベッドの縁にちょこんと腰掛け、手を膝の上に置き行儀良くしているアズマ様。
……さすがに魔王のベッドに上がるのはマズイんじゃないだろうか、という私の戸惑いを知ってか知らでか、
「早く、ナウラス」
ポンポン、とベッドを叩き、隣に座るよう命じる。
「……失礼します」
ほんの少し気をいただくだけだから、と自分に言い聞かせる。
「本当に、いいのですね?」
確認しながら、そっと抱き寄せた。コクン、と頷く貴方の顔がほんのり朱く染まっていて、場所がらも手伝い、まるでこれから別のことをするかのような妙な気分になる。……って、何を考えているんだ、私は。
「今日は、優しくしますね」
前はいきなりがっつきすぎて、少し怖い思いをさせたかもしれない。今日は時間をかけて、少しずつ、気をもらおう。
「ぅ……」
腕の中のアズマ様が、ピクリと肩を震わせた。まだ何もしていないが。……緊張、しているのか?
落ち着かせるように、背中を撫でてみた。
すると、私の背中にアズマ様の腕が回され、きゅっとしがみつかれた。……やっぱり怖いのかもしれない。今日はこのまま何もしないでおこうか、と思ったときだった。
「……焦らすな、ナウラス」
真っ赤な顔を上げて、恨めしそうに睨まれた。
「すみません……」
そんなつもりじゃなかったのだが……。
仕方なく、少しずつ様子をみながらゆるゆると気を移しはじめる。
「ん、……」
くたっ、とアズマ様が私に体重を預けてきた。背中に回された手も、力が抜けてそのままダラリと下がっている。
「いいですよ、もっとリラックスして、」
脱力してずり落ちそうになる身体を、しっかり抱き寄せ固定する。
「ふ……ぁ」
……しかし前も思ったが、何て声を出すのだろう。本当に変な気分になってくる。
「……アズマ様、大丈夫……ですか?」
「……ゃ、大、じょ……ぶ」
少し身体を離して様子を伺うと、呼吸の乱れた返事が返ってきた。若干、辛そうな表情で。
「アズマ様、もう、この辺で……」
あまり無理をさせるわけにはいかない。私も本当に具合が悪いのではないのだし。
「えっ……何で、本当に、大丈夫だから、前みたいに……」
そんな潤んだ瞳で縋り付くようにされては、気をもらうはずの私が、逆に求められているかのような錯覚を起こしてしまう。
「それとも、俺の気、あんまり美味しくないとか……」
いや、気に味などないのですが…
今にも泣きだしそうな貴方に、不謹慎にも思わず苦笑してしまい、
「そんなこと……、とても、美味しいですよ」
お詫びのつもりで、話を合わせた。
「じゃ、もっと……最後まで、食べて……。この間みたいに、激しく、して……?」
……あの、すみません。ベッドの上で抱擁している相手からそんなこと言われると、どうしても変な方向に頭が動いてしまうのですが。
「……アズマ様、もしかしてわざとですか?」
何のつもりか、アズマ様は普段から、冗談で私を惑わすようなきわどい言動をよくするが、今回もそうなのか?
……もう、あんまりそんなことばかりしていると、そのうちおイタでは済まなくなりますよ。
「? 何が……? ……あ、」
みるみる羞恥の表情にかわる。
……しまった、素でおっしゃっていたのか。
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