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『魔王に就職』
魔王の誘惑(※ナウラス視点)《1》
 
「ナウラス、何か今日、元気ない?」

 応接間での午後のお茶の時間、アズマ様が突然そんなことを言い出した。

「そんなことはありませんが……」

「朝からぼーっとしてるじゃん。……ケーキも残してるし、」

 ……ぼーっとしている、ように見えたのか。確かに考え事をしていて、あまりアズマ様とお話をしていなかったかもしれない。
 ケーキはただ、ドライフルーツが苦手なので手をつけてないだけだが。

「どこか具合でも悪い?」

「いえ……」

 私より余程か弱い人間の身で、本気で心配してくれるのが健気に感じ、くすぐったい。どこも何ともない、と言うのも何だか申し訳ない気分になり、このまま具合が悪いことにしてしまった方がいいような気さえしてくる。
 でも、いつまでも、貴方にそんな不安げな顔をさせるわけにはいきませんね。

「アズマ様、ご心配な……」

「前みたいに、俺の気を分けたら、よくならないかな?」

 ご心配なく、という私の言葉を遮った、アズマ様の提案。
 以前、私が食欲がなくて不調だった時に、……本当ならば魔王に対してこんなこと許されないのだが、諸事情もあり、ついアズマ様の気を分けてもらって体力を回復させてもらったことがある。
 でもその方法は、アズマ様には刺激が強すぎたようで、また私もついつい必要以上に吸い取りすぎてしまい、お身体に負担をかけてしまった。それでも、また私が弱った時にはいつでも協力するとおっしゃってくれたのは嬉しかったし、実際今もこうやって言っていただけるのは、本当に有り難い。

 しかし、今は弱っているわけではないので、お気持ちだけいただこう。

「ありがとうございます、でも大丈夫ですので……」

「遠慮するなって言っただろ、ナウラスが倒れたら俺が困るんだから……ほら、」

 と言って、私の手を掴んで、自らの腰に導くアズマ様。……これは、いわゆる据え膳というものだろうか。
 気は充分足りているのに、そうやって目の前に差し出されると、欲しくなる。……少しだけなら、もらってしまおうか。

「……いいのですか」

「うん。……あっ、ちょっと待って」

 ……回しかけた腕をスルリと抜けて、アズマ様は長椅子から立ち上がった。
 
「多分俺、また動けなくなるから、最初から部屋でしたほうがいいよな?」

 何かと思えば。……動けなくなったら、またお運びするだけのこと。そもそも今日はそこまでするつもりもない。でも、アズマ様のお望みなら、仕方ない。応接間を後にして、アズマ様の部屋へ移動する。

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あきゅろす。
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