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『魔王に就職』
魔王に採用(※ナウラス視点)《4》
 
 ……アズマ様は、2日目の午後に会場に見えた応募者だった。
 若い応募者が多い中、比較的年齢が上の方に位置するせいか、他の人間より落ち着いて見えた。もちろん少しは緊張もしていただろうが、他に比べて気負っていないというか、おかげで私も肩の力を抜いて話すことができた。おそらく、相性というものなんだろうか、その後も何人かと面接をしたが、一緒に居て最も心地良さを感じたのがアズマ様だった。
 それで、採用を決め、求人誌の彼女等を通してアズマ様に連絡を取り付け、再び会うことにした。

 面接時に一度会っただけなのに、そこで妙に懐かしい気分になったのは、思えばあの時から私は既に貴方のとりこだったのだろうか。

 アズマ様の顔を見れば自然に笑みが浮かぶ。最初はその程度だったが。……その後、こちらへ連れて来て魔王になってもらい、アズマ様と共に過ごすようになると、荒れてた城がみるみる落ち着きはじめるのと同じ速度で、自分もみるみる変わっていくのを自覚した。
 今まであまり感じることのなかった自分の心の暖かい部分が、アズマ様の前では全開になる。どうしてか、アズマ様に対してはうんと柔らかい気持ちになってしまう。たっぷり甘やかして、優しくして、喜ばせてあげたい。

 自分で解る位なので、私の変化は周りから見ても明らからしく、この間、リッゼなどには、「ナウラス様にも春が訪れたのね、」とからかわれた。
 それは恋愛事をいうものだろうに、何を言っているんだと一応否定をしておいたが、言われてみれば、恋愛事かどうかは別にしても、春というイメージはこの暖かい感情を例えるのに1番適しているな、と思った。
 それに最近は、何だか少し、リッゼの言っていたことを頭からは否定できない状況で……。
 あんまり優しく甘い気持ちになりすぎて、時々、アズマ様を思いきり抱きしめたくなる。もちろん、そんなことはできるわけがないが、そうでなくてもとにかく触れていたくて。どうやらアズマ様の傍が心地良すぎて、依存症のようになっているらしい。顔も見えない時は何となく苦しい。今、こうしてひざ枕をしているのなんか、最高に幸せだと思える。……恋かと言われれば少し迷うが、愛かと言われれば、愛であると、言える気がする。この人間が、愛おしい。

「ん……」

 ……あ、そろそろ起きるかな。

「……ふわぁ、……ヤバイ、ここ気持ち良すぎる」

 目を擦りながら、むくりと上半身を起こし、座り直すアズマ様。……もう少しゆっくり寝ててくれてもよかったのに。温もりの去ったひざが寂しい。

「あ、ナウラスごめん。ありがと。足痺れてない?」

 でも、代わりに貴方の優しい声かけに、心からじんわり暖かさが広がった。
 
「平気ですよ。アズマ様こそ、枕が硬くありませんでしたか」

 ああ、ほら。またひとりでに柔らかい表情になってしまう。

「ううん、ぐっすり寝れた」

 穏やかな陽気によく似合う、貴方の寝起きの緩んだ笑顔。
 私の、愛しい魔王様……いつかは手放さなければならないのだけど、もう少し、傍にいて。願わくばこの幸せが永久に続かんことを、叶わぬと知りながら祈り捧げても、いいですか?


<END>

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あきゅろす。
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