『魔王に就職』
魔王に採用(※ナウラス視点)《2》
……1年前、後継ぎにと考えていた竜人族の卵がまだ孵る前にダラス様が急逝してしまい、城は混乱の渦に落とされた。私やその他の力ある魔族たちで何とか治めようとするも、むやみに仲間を傷つけることもできず、中々鎮めることができないでいた。
魔王が居ないため魔物たちが不安になってパニックを起こしていることは解っていたので、とりあえず竜人族の卵が孵り次の魔王が生まれるまで、仮に魔王を立ててはどうかという考えがどこからともなく出てきたのは、ダラス様の死から半年も過ぎ、皆がもはや疲れを隠せなくなってきた頃だった。
しかし、仮の魔王を誰にするかという問題は、なかなか簡単ではない。私を含め、下手に領地内の誰かを魔王として立ててしまうと、他の仲間たちの反感や不満を煽りかねない。かといって、外部から別の魔族を迎えるとなると、充分に人選をしなければそのまま乗っ取られるおそれが出てくる。
そこで、何かとその場の感情に左右されやすい魔族よりも、報酬さえもらえればあらゆることをビジネスとして割り切ることに長けている人間を仮魔王にすることを思いついた。
それも、できれば魔族への先入観のない、今まで魔族とは全く何の接点もない人間がいい。今は双方あまり関わらないようにしてはいるが、魔王軍は遥か昔に人間の国と戦争をしていたことがあり、一部の人間や魔族は今でも互いに恨みや憎しみを持っている。そうでなくても人間側から言わせれば、我々魔族は問答無用で悪の存在であるらしく、たまに討伐隊や勇者という名の侵入者が城へ来たりもする。
だから、その辺の人間ではきっと駄目だ。私は城の混乱を何とか抑えつつも、条件を満たす人間のいる世界へと繋がる魔法陣を密かに完成させた。場所を特定するわけではなかったのでこれまでとは作成方法が違い、手探りで作っていたが、完成した魔法陣が導く先はどうやら今居る世界とは次元が異なるようだった。そういった場所に移動する魔法陣は、そう簡単にできるものではない。気軽に何度も行き来はできないだろう。この一度で必ず仮魔王を見つけて帰ると心に誓い、城の留守を無理を言って四人の分領主に預け、単身で未知の世界へ乗り込んだのだった。
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