『魔王に就職』
魔王に採用(※ナウラス視点)《1》
先代魔王が亡くなられて、もう1年になるのだな……。
午後の仕事も一段落し、休憩中のゆるやかな時間の中で、ふと過去を思う。
つい昨日、先代のご命日で、アズマ様と一緒に墓参りに行ってきたばかり。久しぶりに先代の故郷へ訪れて、少し懐かしい気持ちになっているのかもしれない。
あの方が突然黄泉に旅立たれたあの日から、魔王不在で荒れだした城を何とか治めようと、息をつく暇もなく慌ただしく過ごしてきた、あっという間の1年だった。……最近やっと落ち着いてきて、こうしてゆったりと午後のティータイムを楽しむこともできるようになったが。
今日は、天気がいいので中庭でピクニックみたいにしたい、と言うアズマ様に付き合い、小さな木の陰に敷物を敷いて、初夏の風に吹かれながらの午後3時。思いのほか気持ちが良くて、油断するとウトウトしてしまう。
私でさえこれだから、アズマ様はもうとっくに夢の中。私のひざを枕に、スヤスヤと安らかにお眠りのご様子は、まるで小さな子どものようで。見ているとつい頬が緩む。
先代のダラス様亡き後、半年以上空席だった魔王の玉座に、この方を迎えて正解だったな。
人間の魔王なんて、と初めの内は周りに色々言われたが、アズマ様が来てからの魔王領地の様子を見れば、もう誰も文句のつけようがないだろう。特別何かをしている訳ではないが、あんなに荒んでいたことが嘘のように、むしろ以前より統制のとれたまとまりのある組織になっている気がする。
この平和が、いつまでもつづいてくれれば良い。できれば、アズマ様にはずっとここにいてほしい……。
サラサラとした黒髪に、そっと指を絡める。……アズマ様に触れると、落ち着く自分がいる。こんな穏やかな暖かい感情が自分にあるなんて、貴方に会うまで気がつかなかった。
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