『魔王に就職』
魔王Jr. がお呼びです。《4》
「ナウラス!」
「はっ、はい!!」
ボーっとしていたらしい。ちょっと大きい声で呼んだら、ビクッと揺れて返事をした。
「ナーナ!」
「は……、」
アルが、俺のまねをして、大きい声を出した。
「ナーナ! ナーナ!」
上手にまねっこできたのが嬉しかったのか、繰り返しながらナウラスの膝の上をポムポムする。
……あれ。
「ンナー、ナー、ナーナー」
ナウラスを見ながら、「ナー」の音を繰り返す……これって、
「もしかして、ナウラス、と呼んでいるのですか、アル様?」
「ナーナ?」
ナウラスがキュンとしたのが、はた目にも判った。
「は、はい……アル様」
「ナーナ」
「はい、アル様!」
……。
「なっ……何返事してんだよー! ナウラスは『パパ』だろー!?」
「すっすみません!だって、嬉しくて……」
「ナーナ、ナーナ」
「はい! ……はい、アル様!」
……うう、しょうがない。初めて呼ばれた時のその喜びは、俺が一番知っているから。
「……ちょっと思ったんですが、」
ひとしきり幸せをかみしめたナウラスが、ふと気づいたように俺に言う。
「私は『ナウラス』で『ナーナ』でしょう? もしかして『マーマ』も、アズマ様のお名前を呼んでいたのでは……。ママなんて言葉、アル様が『マーマ』とおっしゃるまでは誰も教えていないわけですし」
……なぬ?
な、な、何と……
いや、でも、そうかもしれない。
ナウラスが俺のこと「アズマ様」って呼ぶのをいつも聞いてて、アルがまねしようとして「あ」とか「ま」とか言ってるうちに「マーマ」になっちゃったのかも……。
「あ、じゃあ、もしかしてあの時、エンダリオのことを『ダーダ』なんて言ったのも、『エンダリオ』の『ダ』……?」
ダディの意味じゃなかったのか。って考えたら当たり前か。ダディなんて言葉も全く教えてない。
「そうですよ、そうに違いありません。そうに決まってます」
きっぱりと言い切るナウラス。
……ええぇ〜。ショック。ママじゃなくてアズマだったなんて。
「まぁでも、『マーマ』は、アズマ様が教え込んだので、今ではすっかり『ママ』の意味だと思いますが。ですよね、アル様?」
ナウラスが膝の上のアルを抱き上げて、俺に返す。
そうかな? 本当?
「……マーマ!」
俺に抱っこされながら、ニコーッと笑うアル。
……うん、何か、「ママ」でも「アズマ」でもどっちでもいいや、って気になった。アルが呼ぶ「マーマ」は、「マーマ」だ。
ちょうど、午後茶の時間になって、小魔物たちが応接間に入ってきたので、話題のついでにアルに聞いてみた。
「アル、小魔物さんたちは、何ていうの?」
するとアルは、小魔物の動きをジーッと目で追いかけて、それから俺を見て、言った。
「コッコ!」
こ、コッコーーー!! 小魔物の「こ」ですね! キャワイイ! ……てか、今、普通に会話が成り立った! やっぱ俺の言ってること解るんだ!! おりこうおりこう〜♪
うちのアルは、順調に成長しています。
<END>
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