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『魔王に就職』
魔王Jr. がお呼びです。《3》
 
「アズマ様というお母様がいて、良かったですね、アル様」

 ……。

「ナウラス、ちょっとアルの抱っこ交換して」

 と、アルを隣のナウラスの膝に移動させる。
 卵から生まれたばかりのころより大きくなって抱きやすくもなり、また、ナウラスもちょっとずつ慣れてきているため、まぁまぁ上手に抱くことができている。
 アルも膝の上で、座りながらポムポム跳ねてご機嫌だ。それをナウラスが支えながら優しく見守っているのが何とも微笑ましい。……うん、

「アル、パパって言ってみ」

「えっ!!? アズマ様??」

 やっぱり必要だと思うんだよね。ママだけじゃなくてさ。本当はセレアがパパになってくれたらいいんだけど、断られたし。それに、もしパパになっても、一緒に住んでるわけじゃないし、あまり会えないからな。その点、ナウラスなら、いつも一緒だし、……まぁ、さっきは一線を引くとか何とか言ってたけど、結局、魔王として育てるってことは、一人前にするってことで父親の役目に近いものがあるんじゃないかな?

「何をおっしゃってるんですか、わ、私はアル様の父親ではありませ……」
「俺だって母親じゃないよ。ほら、アル、パパだよ、パーパ、」

 お、アルが口をもごもごさせてる。頑張れ、パパって言うんだ! ナウラスだって、呼ばれればきっと嫌な気はしない。今だって、本気で嫌がっているというより、顔を赤くして、照れてるだけな感じだ。

「だ、ダメです! アル様は魔王になるお方。私が父親になるなんて……。アル様、私のことはただナウラス、と」

 首をぶんぶん振って、アルに名前を呼ぶように教える。せっかくパパと言いそうになっていたアルの口が、ゆるんでしまった。

「俺をシングルマザーにする気だ……ううっ、ナウラスに捨てられた……」

「! ち、違……っ、アズマ様、」

 シクシクとわざとらしい泣きまねにも、オロオロしてくれるナウラス。このまま泣き落としたら、パパと呼ばれてくれるかな。

「……俺、ナウラスに、アルのパパになってほしいよ……」

 座ったままナウラスの肩にもたれて、ナウラスの膝の上のアルの髪を指に絡める。

「……ぇ、あ……」

「お願い……ナウラス……」

 肩にあごを乗せて、目を見ながらお願いする。……ナウラスは照れ屋で至近距離からの凝視が苦手だから、こうやって顔を近づけて目を合わせれば、大抵は折れて俺のワガママとか聞いてくれちゃったりするんだよね。無理を言い過ぎるとたまに反撃がくるけど。
 今回はやっぱりそう無理なことでもなかったらしく、コクコクコク、と激しく首を縦に振って承諾してくれた。

「よっし! アル、ナウラスがパパだぞ!パパって呼んでみ?」

「……ん、はぷ……、ぱふー、」

 あー、惜しい! 頑張れアル!

「ほら、ナウラスからも、パパって呼ぶように声かけて!」

 と、ナウラスを見ると、首がさっきコクコクと頷いた時の方向を向いたまま固まっていて、目はどこか遠くを見ている。……何やってんだ?

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