『魔王に就職』
魔王Jr. がお呼びです。《1》
「あー。まー、マーマ」
「はーい。何、アル?」
ママと呼ばれて、返事をすれば、キャッキャッと喜ぶ可愛い俺の天使。
「マーマ、」
「はぁい、」
キャッキャッ。
「ンマーマーマーマー……」
「はいはいはいはい〜……」
キャッキャッ。
応接間。長椅子に腰掛けた俺の膝に、向かい合うようにアルを座らせて、さっきからお互い飽きもせずに、呼んでは返事してニコニコ笑って……を繰り返している。
「……」
ふと、視線を感じて入口を見ると、ナウラスが微笑を浮かべてそこに佇んでいた。
「……? 何か俺に用事?」
そんなところに立ってないで、入って来るか、声かけてくれればいいのに。
「……いえ、お2人の睦まじいご様子に、思わず見入ってしまっただけです、すみません」
いゃあ、睦まじいって……何だか照れるな。なぁ、アル?
「……ナウラス、今、忙しい?」
「いいえ、」
「じゃ、こっち来て座って。一緒にアルと遊ぼ」
椅子の真ん中に座っていたのを、少し避けて、隣にナウラスを呼ぶ。
「マーマ、」
「はいはい。アル、ナウラスも一緒に遊ぼうな?」
アルが、確認するようにナウラスを見る。おお、もしかして、俺の言ってることちゃんと理解してるのかな。賢い。
「……アズマ様は、すっかりアル様のお母様なんですね」
クスクスとナウラスに笑われて、確かにすっかりアルが俺のことを「ママ」と呼ぶようになってしまったことに改めて気づき、もしかしてちょっとマズかったかなと考える。お披露目パーティーの時の偶然のおしゃべりが、俺の呼び名として定着しちゃったのは、呼ばれる度に喜んで返事しちゃう俺のせいだ。
「……やっぱ、ダメかな?」
あの時は、俺が育てる!と意気込んで、ママ呼びに大興奮だったわけだが、冷静に考えてみたら、俺はただの契約魔王だし、ずっとここにいるわけじゃないし、アルが大きくなるまで育てることはできないのかもしれない。それなのに母親面なんかしたら、アルのためにも、アルの周りの人たちに対しても、あまり良くないんじゃないか……。
…てかまず、性別からして間違ったことをこのまま覚えさせちゃって大丈夫かな。
「どうしてですか? ……私は、アズマ様が、アル様の母親代わりになって下さるのなら、こんなに良いことはないと思っておりますが」
ナウラスが、俺に顔を向け、ふわりと微笑む。
「アル様のことを、ただただ可愛いと思って愛することができるのは、アズマ様だけなんですから。……アル様は次期魔王ですので、私たち配下の魔族はどうしても一線を引かなければならないですし、」
もちろんみんなでアルを育てるんだけど、ナウラスたちは「魔王として」アルを育てることしかできない。俺には、そうじゃなくて、ただ普通の愛情を、この親のない竜人の子に注いでやってほしい、と、ナウラスは言った。
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