[通常モード] [URL送信]

『魔王に就職』
ハッピーバース!《10》
 
 水王に御礼を言って別れたあと、さて、メシだメシ♪と料理の置いてあるテーブルに向かうが、途中で色んな客から挨拶をされて、中々御馳走にたどり着けない……。そうだ、就任式の時もそういえばこんな感じだったよ。トホホ。
 適当にあしらったりなんて失礼なことはできないので、1人1人と言葉を交わして、アルを抱かせたりして、交流を深める。アルはあんまり人見知りはしないみたい。みんなにたくさん抱っこされて、いっぱい祝福されて、よかったね。

 やっと少し落ち着いたので、オードブルを1つつまんでから、さっきから行きたかったセレアの所へと向かう途中、また客が1人こちらへやってきた。

「魔王殿、この度は後継ぎのご誕生おめでとうございます」

「キース……、ありがとう、お祝いに来てくれたんだ」

 俺の側に居たナウラスが、わずかに顔を歪ませる。……自分で招待したくせに、ナウラスもよく解らん奴だな。嫌なら呼ばなきゃいいのに。

「それは、私にとっても、めでたいですから。次期魔王が生まれたら、魔王殿は失職……」

「しません。飽くまでアル様はまだ次期魔王です。アズマ様には、アル様が魔王として成長されるまで、魔王でいて頂く予定です」

 あ……よかった。そういえば、パタパタしていて、アルが生まれた後の俺の身の振りの件はまだハッキリしてなかったんだ。後でちゃんと話があるとは思っていたけど、ナウラスがそういうつもりなら、少なくとも契約期間中は安泰そうだ。

「そ……。まぁ、私は時間はたっぷりあるので、気長に待ちますけどね」

「どうぞ。どんなに待っても、貴方に渡すつもりは一生ありませんが」

 ……笑顔の攻防が怖い……。俺、もう行ってもいいですか?

「まぁまぁ、お祝いの席で口争いは止めましょうか。次期魔王殿にも失礼でしたね、すみません。改めて、おめでとうございます」

 腰を曲げて、アルに目線を合わせて挨拶する。キース、大人。

「……抱っこしてみる?」

 と聞いてみたが、遠慮された。……というか、アルの方が何か嫌がっているような……。珍しい。さっきまで色んな人にバンバン抱かれてたのに。

「ふふ、次期魔王殿には、私が子どもを苦手だと、バレているようですね」

「苦手なの?」

 確かに、子どもと遊ぶ姿はあんまり似合わないけど。

「……まぁ、普通に可愛いとは思いますが、罪悪感というか……。……普段、無駄撃ちばっかりしてるもので」

「祝いの席で下品な……口を慎め、ケダモノめ」

 ……また始まった。

「ナウラス、一々気にするなって。キリがない」

 笑い飛ばせば済む話にまでピリピリして、空気悪くなる方が、祝いの席に似つかわしくない。
 何とかなだめて、少し頭を冷やしてもらうために、ナウラスをキースから遠ざけることにする。近くに居たリッゼを呼んで、ナウラスの代わりに俺の護衛を頼んだ。俺の側にリッゼが居ることで少し安心したナウラスは、単独で他の客の所へ挨拶をしに行った。

[*前へ][次へ#]

10/15ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!