『魔王に就職』
ハッピーバース!《9》
その時、パーンと明るいファンファーレが突然鳴り出して、俺は赤ちゃん……アルを抱えたまま、ビクッと身をすくませた。
見ると、いつの間に準備していたのか、魔物の器楽隊がホールの脇にいて演奏している。……城の魔物たちはほとんど侵入者撃退用の戦闘要員なので、セレモニーの時のこういう演出などをしてくれるのは、大体マスカの所の魔物たちだ。
ありがとう、今日も出張ご苦労様です。
ファンファーレにつられ、どこからともなく拍手が、だんだんと大きくなって、会場に響き渡った。
「お誕生おめでとう、アル様!」
元気な子どもの声でマスカが叫ぶと、拍手はますます大きくなる。
「う〜っ! あ〜〜っ」
アルが、キャッキャッとご機嫌で、足をバタバタさせている。
そうか、解るんだな、自分が祝福されているって。
「よしよし、アル……おめでとう、アル!」
「あっ、あ〜」
抱っこの向きを変えて、アルに、たくさんのお祝いの拍手を正面から浴びさせた。
「……ありがとうございます。
城から祝いの酒や料理などを用意してありますので、どうぞ今宵はごゆっくりお楽しみ下さい」
ナウラスが合図をすると、会場に料理が運ばれる。さすがに小魔物たちは、この数のボスキャラレベルな魔物たちの中に放り出されると肝がつぶれてしまうため、今日は最上階でお留守番。なので、会場での給仕には、階下の魔物の中からなるべく品のいいのを選んで使っている。
って、そんなことより、やっとお食事タイム! やれやれ、やっと自由に動ける……
「アズマ様、他は食事をされながらでも構いませんが、水王の所へは先にご挨拶に伺いましょう」
……あーはいはい、水王族とは古い付き合いだから、繋がりを大切にしなきゃいけないんだよね。
……竜人族とも、いずれそうなるんだろうな。と考えると、改めて、魔王領地の歴史を変えるこの小さな竜人の誕生に立ち会えたことを、嬉しく思った。
水王は、俺の就任式の時も来てたけど、サンタクロースみたいな白い髭のおっさんである。実は下半身がタコらしいが、地上では魔力を使い人型の二本足となっている。
性格は……イマイチよく解らないけど、一言でいえば、良い意味で偉そうな感じ。貫禄があるっていうのかな。水王の治める水の国は、魔王領地よりもっと長い歴史のある国なので、本人に誇りみたいなのもあるのかも。……刺々しいってわけじゃないけど、基本無表情だし、ちょっと威圧感があって怖い。
そんな水王が、アルを抱かせてくれと言ってきた。断る理由がないので、抱っこしてもらう。アルが嫌がったらどうしようかとハラハラしたが、案外素直に抱かれて、髭を引っ張ったりしたのにはもっとハラハラした。ナウラスなんか目に見えて青くなっている。
「ほほほ、ジイの髭が珍しいか」
……無邪気って強い。俺、初めてこのおっさんのこんなフニャフニャな笑顔見たよ。
聞けば、この間結婚した娘さんがめでたく御懐妊したらしく、孫の誕生を待ち遠しく思っていたところらしい。アルを抱いて、赤子を抱く練習になったと喜んでいた。
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