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『癒して温泉ナイト』
青い月夜の温泉トリップ《3》
 
 明るく人工的なのは脱衣所までで、温泉自体は自然のままの野湯だ。秘湯の雰囲気バッチリで、入る前から視覚的にも癒される。

「お、今日は満月か」

 既に暗いこの時間、僕の他に入湯者はいない。側にある脱衣所で服を脱ぎ、大自然の中、生まれたままの姿でタオルも巻かずに足を入れようとした湯の面(おもて)。大きく映る、青みがかったキレイな丸い月に、思わず見とれながらお湯に入っ……

「ごぶっっ!!?」

 なっ、何だ、一体、何が起こったのか。

 バシャバシャと湯の中でもがく僕。
 足を踏み外した?
 いや……違う。この温泉、めちゃめちゃ深い!!

 こ、こんなところで溺れ死ぬのは嫌だ。全裸だし。くそ、何とか、お湯から上がらないと……!

「ぷはっー! ……っと!!」

 突然、両の爪先が湯の中で地を捉える。と、途端に身体が浮力を失い、ザバーッという音と共に膝から上がひんやりとした外気に曝された。いきなり戻ってきた重力に、バランスがとれず一瞬グラッとした後、目の前にあった岩壁にとっさに両手をついて転倒を免れる。

「はーっ、はーっ……」

 ビックリした……。何だこの温泉、危ないじゃないか。
 
 息を整えながら、いつの間にか閉じてしまっていた目をゆっくりと開けた。

「……!?」

 ちょ……、ちょっと待て。
 手をついた岩壁と、僕の間に、……人が、いる。

 岩壁にもたれるように座って湯につかり、しっとり濡れた長い黒髪を湯から出ている左の肩に流しているその人は、驚いた様子の見開いた目で僕の顔を見上げていた。
 ……月明かりに照らされて見えたのだけど、その人が、思わず息を呑むような美人で。湯浴み中だから余計にというのもあるだろうけど、そうでなくても多分元々色っぽい雰囲気の。
 
 その艶めいた長い睫毛が、少し伏せられ、その人の視線が僕の顔から違う所へ移ったことが分かった。……。

 ……って、その視線の先って……!!

「……デカいな」

 うわーーっっ!!! 何てことだ! 体勢的に、湯けむり美人の顔のすぐ前には僕の股間のモノが!!
 しかもマジマジと見つめられてそんな感想までいただいてしまったら……マズイことに……

「すっ、すみません! あっ、これはその、いや、違……っあわわっ」

 はいっ、言い訳するより、さっさと消えた方が良い感じですねー!

 やや前かがみになりながら、慌てて温泉から脱出。
 先客がいたなんて、気づかなかった……。
 

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